シリア内戦が終結間近か

 シリア政府軍は昨年12月から、反体制派の最後の拠点イドリブ県への空爆を強化した。この期間に発生した難民は100万人を超えた。内戦終結が間近との見方も出始めている。(カイロ・鈴木眞吉)

政権軍とロシア、要衝を次々掌握
立ちはだかるトルコ軍

 シリア政府軍は1月28日、同県第2の都市マアラトマヌン市を、2月8日、戦略的要衝サラケブを反体制派から奪還した。2月10日には、首都ダマスカスとイドリブ県、北部の商都アレッポを結び、南部ダルアー県からヨルダンにもつながる幹線道路「M5」を2012年以来初めて完全制圧した。

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 同軍は10日、要衝タスタナスの近辺で軍事拠点構築中のトルコ軍兵士5人を殺害。3日にもトルコ軍兵士8人を殺害したばかりだったことから、トルコは5000人の兵士と1200台以上の軍事車両を投入してシリア政府軍側の標的115カ所を攻撃し、戦車を破壊、101人を殺害したと主張した。

 内戦によって550万人が国外で難民に、600万人超が国内避難民になった。第2次世界大戦以来、最大の難民危機とみられている。

 一方、シリア内戦はいよいよ最終局面を迎えたとの臆測も聞かれ始めた。現在、全土掌握を目指すシリア政府軍とロシア軍にトルコ軍が立ちはだかっている。しかし、トルコ軍が支援する反体制派は、シリアのアルカイダ系組織「シャーム解放機構」(旧ヌスラ戦線)やアルカイダの古参活動家が中核の「シャーム自由人運動」、アルカイダに忠誠を誓う「宗教者擁護者機構」、ウイグル人のイスラム過激派組織「トルキスタン・イスラム党」などの外国勢力と、トルコが18年5月に肝いりで結成した武装連合体「国民解放戦線」から成る。同戦線はシリアのムスリム同胞団系のシャーム軍団を中心に、アルカイダ系の系譜を汲(く)まないジハード主義組織の「シャーム鷹大隊」や、バラク・オバマ前米政権の支援を受けていた「穏健な反体制派」の一つ「ヌールッディーン・ザンキー運動」などから成るもの。反体制派は人口密集地に立てこもって住民の避難を許さず、体制側との和解を志向する勢力を粛清してきた。お互いの組織間の信頼関係もない。

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2日、シリア北西部イドリブ県で移動するトルコ軍の戦車や装甲車(AFP時事)

 一方のシリア政府軍は2月16日、反体制派の「決戦」作戦司令室を攻撃してアレッポ市全域を支配下に置き、アサド大統領を中心に国家体制を維持、一貫して「対テロ戦」を主張し、支配地域の奪還を図ってきた。

 トルコは、イドリブ県から2月中に撤退するようシリア政府軍に求めていたが、アサド氏は「(トルコがある)北方からたわ言が聞こえてくる」と反発、トルコとのさらなる武力衝突も辞さない姿勢を示し、「全土奪還は遅かれ早かれ実現する」と明言した。

 トルコは、同国からの独立を願うクルド人が多いシリア北部一帯に断続的に越境攻撃を行い、昨年3月に支配下に置いた北西部アフリンなどでは、トルコ語で教育する学校を設置し、「シリアのトルコ化」を進めてきた。

 ロシア国営メディアは、「トルコは旧ヌスラ戦線の創設に手を貸した」「過激派戦闘員はトルコから、月100㌦の給料をもらっている」などと批判している。

 情勢の急展開を前に、ドイツとフランスは、トルコとロシアと4カ国首脳会談を開催する。しかし、体制側の勝利は確実。シリア国民の犠牲を最小限に抑える取り組みが必要だ。