パレスチナで米大統領の和平案に反発強まる
トランプ米大統領による中東和平案「世紀のディール(取引)」が発表された1月28日以降、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区ラマラやガザ地区では、和平案に反対する抗議デモが行われ、イスラエル軍との衝突でパレスチナ側に死者が出ている。ガザ地区からはイスラエル南部に向けてロケット弾が発射され、爆発装置を付けたバルーンの飛来も相次ぐなど、パレスチナの反発が強まっている。(エルサレム・森田貴裕)
ガザ地区で攻撃の応酬
アッバス氏 米・イスラエルとの全ての関係を断絶
ヨルダン川西岸地区ラマラとガザ地区で28日夜、パレスチナ人数千人が集まり、トランプ氏とイスラエルのネタニヤフ首相の写真に火を付けた。トランプ政権が発表した和平案にパレスチナ人は激怒したのだ。
それまで比較的落ち着いた状態だったガザ地区からは、連日のようにロケット弾や迫撃砲が発射され、イスラエル南部地域に空襲警報が鳴り響いた。イスラエル軍は報復としてガザ地区を空爆した。ヨルダン川西岸地区では、デモ隊の一部がイスラエル治安部隊に火炎瓶を投げるなど暴徒化し、覆面のパレスチナ人武装グループがイスラエル軍部隊を待ち伏せし襲撃する事件も発生した。エルサレムではパレスチナ人の運転する車がイスラエル兵士の一団に突進し、エルサレム旧市街では警官が銃撃される事件が発生した。一連の衝突でこれまでにパレスチナ人5人が死亡、イスラエル兵士12人以上が負傷した。
パレスチナ自治政府のアッバス議長は28日夜、ラマラでのテレビ演説で「聖地エルサレムは売り物ではない。われわれの権利は売り物ではないし安売りもしない。あなた方の取引、謀略は通用しない」と述べ、トランプ氏とネタニヤフ氏を批判した。また、聖地エルサレムを首都としないパレスチナ国家を「パレスチナ人、アラブ人、イスラム教徒、キリスト教徒は誰も受け入れない」「1000回でもノーと言う」と和平案を即座に拒否し、「あらゆる努力を尽くして平和的に抵抗運動を続ける」と述べ、抗議デモを呼び掛けた。
ガザ地区を実効支配するイスラム根本主義組織ハマスも「パレスチナ国家計画の解体を狙ったものだ」として和平案をはねつけた。
トランプ氏は、今回の中東和平案は双方が満足できる和平案だと強調するが、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地にイスラエルの主権を容認し、パレスチナ難民がイスラエル領内に帰還する権利はないとし、エルサレムはイスラエルの「不可分の首都」とするなど、イスラエル寄りの姿勢が鮮明だ。
パレスチナ国家の樹立を認め、イスラエルとの共生を目指すという歴代米政権が掲げてきた「2国家共存」を踏まえてはいるが、東エルサレムの郊外の一部をパレスチナの首都とする内容では、1967年の第3次中東戦争前の境界線に基づいて国家を樹立し、首都を東エルサレムとした上での2国家共存を大原則としてきたパレスチナ側には、到底受け入れられるものではない。アッバス氏は「ばかげている」と一蹴している。
アッバス氏は1日、エジプトのカイロで開かれたアラブ連盟の緊急会合で、トランプ政権が発表したイスラエル寄りの中東和平案を改めて批判した上で、「安全保障面を含め、イスラエルおよび米国との全ての関係を断つ」と述べた。
パレスチナ側は、2017年12月にトランプ氏がエルサレムをイスラエルの首都と承認した時点で、米国による和平仲介を拒否しており、トランプ政権が昨年6月に発表したパレスチナの経済振興として500億㌦(約5兆5000億円)規模の経済支援策を含む和平案の「経済面」も拒絶している。
イスラエル側は、ネタニヤフ氏だけでなく次の選挙で政敵となるガンツ元イスラエル軍参謀総長の両者共にトランプ政権の和平案を支持し大歓迎だ。パレスチナ国家は非武装化され、治安はイスラエルの管理下に置かれるという。
トランプ政権はイスラエル政府とパレスチナ自治政府に対し、4年間をかけて和平案の内容について協議するよう勧告しているが、実質的な主権が存在しない国家をパレスチナ側は受け入れるはずもなく交渉は困難を極めるだろう。紛争解決はまだ遠い。











