中東緊張で国際社会に混迷も、「革命の輸出」目指すイラン


 米軍によるイラン革命防衛隊の海外工作部門「コッズ部隊」ソレイマニ司令官殺害事件は、第3次世界大戦勃発を想起させるなど大きな衝撃を与えたが、両国による「自制」で当面の危機を脱した。しかし、周辺諸国への影響力を拡大するイスラム教シーア派国家イランや、「世界のイスラム化」を標榜(ひょうぼう)するイスラム教スンニ派「ムスリム同胞団」とそれを先導するトルコのエルドアン政権、さらには独裁体制下の中国、北朝鮮、ロシアなどは、今後も国際社会に混迷をもたらす危険性をはらんでいる。(カイロ・鈴木眞吉)

影響力強める中露

 イランでは1979年のイスラム教シーア派革命により、ホメイニ師を精神的指導者とする12イマーム派(シーア派)が主導する体制が確立した。

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8日、イスラエルの占領地ガザ地区で、米国旗を燃やして、イランによる米軍基地攻撃を祝うパレスチナ人(UPI)

 革命防衛隊は、「シーア派革命を守るための軍隊」で、使命完遂のため、国軍以上の軍事力を保持、最高指導者であるシーア派法学者に直属する機関として創設された。

 その海外部門は、各国への革命輸出が使命で、まず、「三日月地帯」(イランからイラク、シリア、レバノン)へ、次は中東全体へ、最後は世界に向けて革命を広めようとしてきた。この2、3年で、三日月地帯の形成に成功、ホメイニ師のビジョンは着実に具体化されている。

 革命輸出を担った人物がソレイマニ司令官で、その影響下にあった主要親イラン民兵組織は、①レバノンのシーア派組織「ヒズボラ(神の党)」②パレスチナの対米・イスラエル強硬派組織「ハマス」③イラクのシーア派民兵組織の集合体「人民動員隊」とその傘下のバドル軍、カタイブ・ヒズボラなどの多数のシーア派民兵組織④イエメンのシーア派民兵組織フーシ派――などで、イランの意向に従って動いてきた。

 イランの最高指導者ハメネイ師は、「(ソレイマニ司令官殺害に対する)米国への報復攻撃は十分ではない」と明言、今後は親イラン組織を使い、「報復」と「革命輸出」のためゲリラ活動を展開し、中東から米軍を完全撤退させることを示唆した。26日にはイラクの米大使館がミサイルの直撃を受けた。

 イスラム法の各国憲法への導入を狙う同胞団は、聖典コーランの中にある法的部分の総称「イスラム法」を神の法と考えている。

 エルドアン大統領は、国内でイスラム化を推進し、ジャーナリストらを大量逮捕して言論を統制、政敵と関係する人物は、軍人、官僚を問わず逮捕するなど、独裁色を強めている。国外では、独自路線で北大西洋条約機構(NATO)と対立、シリアに武力侵攻し、最近はリビアに触手を伸ばしている。さらに中露との関係深化を画策するなど、独自の外交を展開して、各地で物議を醸している。

 アルカイダや「イスラム国」(IS)などの過激派諸派は、同胞団を母体に発生した組織だ。

 リビアのシラージュ暫定政権は国連の支援を受けているが、同胞団中心のイスラム勢力によって支えられている。

 さらに大きな問題は、覇権の拡大を進める中国、核放棄を拒否する北朝鮮、独裁色を強めるロシアのプーチン政権だ。

 プーチン大統領は、憲法改正で退任後も実権を維持することを目指し、シリアでは思うがままに武力を行使している。リビアにも触手を伸ばし、イラン、中国と協力して、中東を足掛かりに、反欧米網の確立を狙って、民主主義勢力に対抗する動きを強めている。

 イスラム勢力、中露は、多様な価値観を認め合い、全世界の共存共栄を図る民主主義陣営と対立する構図に向かいつつある。

 イスラム教指導者の一人は、終末には最終戦争「ハルマゲドンの戦い」が起こるが、それはイランのあたりを中心に世界が二つに分かれて争うと指摘した。