北ミサイル潜水艦開発に思う
探知システム突破は困難
ペイしない大型化・長射程化
先日、北朝鮮のミサイル潜水艦開発を決定付ける衛星写真が米国から公開された。映像は北朝鮮造船所の衛星写真で、円筒形の潜水艦用サイロとおぼしきものが2基、かなり明瞭に映し出されているものである。北朝鮮による水中発射成功の映像公開、金正恩研究所視察の際、潜水艦開発の壁掛けチャートを映像に入れる等予告してきた潜水艦開発であるが若干の所見を披露したい。
まず、従来北朝鮮が保有してきた潜水艦を紹介すると、現役と見られる艦艇はロメオ級潜水艦約20隻、サンオ級潜水艦約20隻、ヨノ級潜水艇約10隻が主な装備である。あとは小型の潜入を目的とした潜水艇クラスである。ロメオ級は1960年代に旧ソ連で製造された型で、北朝鮮は90年代まで国産したと見られている。潜水艦としては最も旧式で、潜水行動数十キロ、10時間程度で、「可潜」艦であり潜水艦ではないと言われる代物である。サンオ級は小型潜水艦で、93年、江陵海岸に乗り上げ捕獲された旧式艦である。ヨノ級は小型潜水艇で魚雷発射能力を持ち、西部国境付近で韓国海軍「天安」を撃沈したと言われている。
こうして見ると北朝鮮潜水艦能力は見るべき実績は無く、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載できるような大型艦の実績はない。しかし注目すべきは旧ソ連・ロシアからの退役潜水艦の導入である。種々情報がある中、退役したゴルフ級潜水艦10隻を廃材として輸入したことが知られているほか、脱北した康道明(姜元首相娘婿)の証言として、93年、原子力潜水艦2隻を廃材として輸入、保存していることが伝えられている。ゴルフ級潜水艦は60年前後にソ連が23隻建造した3000トンクラス、初期のSLBM搭載のディーゼル推進の通常型潜水艦である。SLBMが、本構造内に収まらないため、船橋後部に数発垂直に収納するタイプで運用上の制約が厳しいとされる。90年に退役し、93年解体のため10隻が北朝鮮に受け渡された。中国へは66年4隻が設計図、補給部品と共に供与され、中国海軍潜水艦建造の基礎的役割を担ったと言われている。
北朝鮮ミサイル開発の大きな起点となったウクライナ経由のミサイルはSSN6で、ゴルフ型最新タイプはSSN5を搭載していたとされるため、ゴルフ型と北朝鮮が保有する水中発射型の北極星ミサイルを結び付けるのは適当ではない。SSN5は液体燃料、北極星は固体燃料という決定的な差もある。
ここで対潜水艦戦に不可欠な探知システムについて触れておきたい。冷戦構造厳しく、東西対立する中、ソ連の戦略ミサイル潜水艦の動態掌握は西側にとって大きな課題であった。この対策として米英は共同して「SOSUS」システムを開発した。これは海底要所に探知センサーを設置、ケーブルで陸上基地に音源を送るシステムで、欧州に始まり、米州、太平洋へと拡大されたシステムである。センサー設置不適な海域監視のための音響調査船、音源探知後継続追尾するための哨戒機との連携等、その能力は極めて高い。当然秘密区分も高く「存在秘」の時代が続いた。冷戦崩壊により、90年代から秘密区分が引き下げられ、公表されるに至っている。
わが国も帝国海軍時代より探知システムが構築されているし、SOSUS、あるいはロシア軍システム、中国「水下的強網系統」の存在が知られている。探知システムの能力は、2004年、中国漢級原潜が石垣島領海を潜航侵犯した事案について、潜航55時間にわたる正確な追尾により、航跡を提示、中国側を謝罪せしめた実績があるように、極めて高いものであると言うことができる。
北朝鮮はSLBM搭載の潜水艦を開発するからには、このようなセンサーシステムは十分承知の上でのことであろうから、どのような運用を考えているのか監視を続ける必要がある。一般には中距離弾道ミサイル(IRBM)程度の中型ミサイルを搭載する潜水艦を、米本土を射程に収める海域まで進出させ、攻撃能力を保有することが考えられるが、探知システムを潜り抜け外洋に進出するのは至難の技であり、特に地形上ネックとなるわが国周辺海峡を通過するのは事実上リスクが高い。もう一つの方法は大型潜水艦を開発し、領海近辺の適切な海域に「静かな海」を設け、長射程ミサイルを搭載し、直接米本土を狙える能力を持つことであろうが、巨大な資源投資、開発費が必要であり、困難を伴うことおびただしいと言える。こうして見ると北朝鮮のSLBM搭載潜水艦の開発は、決してペイするものとは言い難く、今後の推移が注目されるところである。
11月はトランプ米大統領が日中韓を訪問、続いてアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議(ベトナム)、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議に出席、各かの地における発言では、日本海への空母3隻集結の行動を背景に、北朝鮮に対話路線への余地を与える言動が目立った。そして帰国後「テロ支援国家」に再指定、一段と経済をはじめとする締め付けを強化した。中国も習近平の特使を派遣する等各種の工作が行われている。経済制裁・政治的孤立が深まる中、追い詰められた感じの強い北朝鮮の出方が注目されるところである。
(すぎやま・しげる)