日韓「慰安婦」合意 野党・市民団体、「破棄」に勢い
「朴槿恵が弾劾され韓日合意を破棄する道が開かれました」
15日、在ソウル日本大使館前の慰安婦像を囲み毎週水曜日に行われている反日デモ集会で主催者、韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)の韓クギョム共同代表はこう叫んだ。
日韓「慰安婦」合意を受けてつくられた「和解・癒やし財団」は日本が拠出した10億円を基に元慰安婦の生存者と遺族への癒やし金支給を粛々と進めている。これに対し挺対協は、賠償金の性格を帯びていないなどとして支給を妨害してきた。弾劾で朴政権下の政策や業績を否定しやすくなり、挺対協は勢いづいている。
5月9日に実施される次期大統領選では最大野党・共に民主党の文在寅前代表が最有力候補に挙げられているが、ある外交担当ブレーンは「政権を取ったら対日政策ではまず慰安婦問題の韓日合意を破棄し、再交渉を求めるだろう」と述べた。
文氏の陣営は李明博・朴槿恵両保守政権に対する「政治的報復心にみなぎっているため、無条件に朴政権とは正反対の路線を取る」(韓国政府系シンクタンク関係者)とみられている。
国政介入事件以降、すでに財団への影響は出始めている。財団関係者によれば、昨年末の国会予算審議で共に民主党が主導し財団経費に向けられる予算がカットされたという。また日韓合意を無効にするために、元慰安婦が受け取った癒やし金の財源である10億円を日本にそっくり返し、元慰安婦らが受け取ったものは韓国の政府予算から出されたものだという形を取る辻褄(つじつま)合わせの案も浮上しているようだ。
昨年末に新たに設置された釜山日本総領事館前の慰安婦像は地元自治体によって法的根拠が後付けされ、韓国政府はますます撤去しづらくなっている。財団が当初、議題に上げていた慰安婦像の移転先となる追悼施設の用地問題もどこかに引っ込んでしまった。
ただ、実際に政権を取った場合、どこまで強硬な態度を取るかは不透明だとする見方もある。
文氏の選挙応援チームで広報担当の朴洸搵議員は文氏の周辺で日韓の「慰安婦」合意や軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を見直す主張が出ていることについて「韓日は重要な隣国同士だ。歴史認識問題と他の問題を切り離し両国の協力を強化していくのが賢明な姿勢であり、それが両国の指導者にとって重要」と述べている。
弾劾後の政治情勢変化に影響を受けそうなのは米国との関係も同じだ。
文氏は米韓同盟重視の姿勢を示しながらも安全保障問題でたびたび対北融和路線の発言を繰り返してきた。トランプ米政権の発足を機に北朝鮮非核化の新たなチャンスが訪れるかもしれない時に韓国新政権がその妨害勢力として登場した場合、米韓関係の動揺は避けられない。
朴槿恵氏弾劾の余波で韓国の国内政治、外交・安保が漂流し始めている。
(ソウル・上田勇実)