次期大統領選、文在寅氏ら「親北」左派の祭りか

弾劾の波紋 漂流する韓国政治(中)

 被疑者:検事さん! もうすぐ共産主義社会が到来します。そうなったら私が検事さんを審判することになるでしょう。

 担当検事:今は自由民主主義体制であり私はそれを守る義務がある検事であるため、体制を転覆しようとする君たちを起訴するしかない。

文在寅氏

13日、国会議員会館で雇用創出に関する公約を発表する「共に民主党」の文在寅前代表=韓国紙セゲイルボ提供

 これは1981年、釜山で社会科学系の読書会と称し集まっていた大学生や教員らが利敵表現物を学習していたなどとして国家保安法違反などの罪に問われた「釜林事件」で、逮捕された学生と捜査に当たった検事の実際にあったやりとりをまとめた陳述書の一部である。ここで言う「共産主義」とは北朝鮮独裁体制の主張や路線を支持する親北主義のことを指す。

 現在、事件は軍事独裁の全斗煥政権が民主化運動弾圧の一環で引き起こした冤罪(えんざい)だったとみられがちで、実際に一部被告は再審で無罪判決を言い渡されている。

 しかし、検事は事件から26年たった現在も学生が意識化学習(親北主義の同調者にすること)を施し、内部記録に非公開運動組織の存在が記されていたことなどから事件の本質は「親北主義の地下活動」だったと確信しているという。

 この釜林事件の弁護団の一人だったのが後に大統領になった盧武鉉氏。そして盧氏に思想的影響を与えた左派学生運動グループの中に若かりし日の最大野党・共に民主党の文在寅前代表がいた。出世は盧氏が先だったが、「左派思想の面では文氏が先輩格」(韓国公安関係者)だった。

 その文氏が今、次期大統領に最も近い人物になった。朴槿恵大統領の友人、崔順実容疑者による国政介入事件とその責任を問われた朴氏に対する弾劾により「棚ぼた式」にだ。

 盧武鉉政権で北朝鮮の核問題解決に向けた6カ国協議の首席代表を務めた千英宇・元青瓦台(大統領府)外交安保首席は盧政権の対北政策をこう振り返る。

 「自国安保も顧みず南北関係改善という幻想を追って北に過度な投資と多くの譲歩をし、韓国の価値観を犠牲にしてまで南北首脳会談に執着していた」

 盧政権の最側近だった文氏は「基本的に北朝鮮に同情を抱いている人」で、大統領になれば「北朝鮮に手を差し伸べるイニシアチブを取る可能性が高い」という。結果、北朝鮮非核化に向けた日米韓3カ国の連携にひびが入るのは必至だ。

 釜林事件の担当検事は2013年、ある集まりで文氏を「共産主義者」と指摘し、「文氏が大統領になったら韓国が赤化されるのは時間の問題」と述べたことで提訴され、現在、控訴審中。左派学生運動や親北主義者が「民主化勢力」と称される今の韓国でこの種の問題はあまり注目されないが、逆に根の深さを物語っていると言えよう。

 直近の各種世論調査で文氏の支持率は30%前後でトップ。共に民主党には盧元大統領に近かった安煕正・忠清南道知事や過激な発言で韓国版トランプの異名を取る李在明・城南市長らの候補もいる。一方、保守陣営は筆頭格だった黄教安権限代行(首相)が不出馬を表明。次期大統領選は左派の祭りになる公算が大きくなっている。

(ソウル・上田勇実)