弾劾の波紋 拒む朴氏、保守亀裂に拍車
憲法裁の“政治的判断”
国政介入事件に関する韓国憲法裁判所の朴槿恵大統領弾劾判決を受け、韓国では憲法裁の政治的中立性に改めて疑問を投げ掛ける声が上がり、近く実施される次期大統領選に向けた政治情勢は混沌(こんとん)としてきた。弾劾の波紋を追った。
(ソウル・上田勇実)
朴大統領の弾劾を求め毎週数万人が結集したろうそくデモに対抗し、韓国の国旗・太極旗を手に弾劾反対を主張した保守派集会。ここで精力的に発言していた検事出身で与党・自由韓国党の金鎮台議員は弾劾直後の集会で「憲法裁に期待したのにこんなふうにするなんて。このままじゃ駄目だ」と語った。
韓国では圧倒的多数が今回の憲法裁判決を受け入れている。しかし、憲法裁自身が決定(判決)文で明言している通り、「検察や特別検察官の調査に応じず、青瓦台(韓国大統領府)への家宅捜索も拒否し、被請求人(朴氏)に対する調査は実現しなかった」。捜査が終了していない段階で弾劾の可否を判断した点には識者から「無理があった」という指摘が上がっている。
また韓国憲法裁の在り方も以前から問題視されていた。梁東安・韓国学中央研究院名誉教授はこう指摘する。
「憲法裁判事たちは大統領や大法院長(最高裁判所所長)、与党、野党から別々に任命されるため極めて政治的性向に敏感な人たち。純粋な法理に基づく審理を行うためにつくられたはずの憲法裁が『政治裁判所』に転落してしまった」
2004年の盧武鉉大統領に対する弾劾では世論の大半が反対し、今回は逆に圧倒的多数が賛成だった。韓国は「法律的に受け入れられるか否かという国民の“法感情”が支配する国であり、法律の上位に“国民情緒法”がある」(梁教授)のが実情だ。
判決後、朴氏は青瓦台を出て新居となるソウル市南部の私邸に移った。その際、広報担当の議員を通じ「時間はかかるだろうが、真実は必ず明らかになると信じている」と述べ、事実上の不服従を宣言した。私邸前は自粛ムードに包まれるどころか朴氏に近かった与党議員や支持者が詰め掛け、朴氏は笑顔で握手したり短いあいさつを交わしていた。
弾劾後の朴氏の言動は野党陣営はもちろん一部保守派の反発まで招いている。与党と袂(たもと)を分かった正しい政党は「私邸政治の始まりか」と警戒し、分裂状態にある保守の亀裂は決定的となった。
前述の金議員に誘われ、弾劾無効を訴える集会で演説するよう頼まれたある保守派の論客がため息交じりにこう漏らしていた。
「われわれが守るべきは朴槿恵という人物ではなく、大韓民国の自由民主主義だ。お誘いはお断りした」
次期大統領選まで2カ月足らずの中、保守陣営は弾劾の打撃から早く立ち直り再結集を急ごうとする「合理主義的保守」と、弾劾を政局に利用し再起を図ろうとする「親朴系保守」に分かれたままだ。
大統領を罷免された朴氏は不訴追特権が剥奪されるため、被疑者資格の捜査が待っている。検察は近く聴取の日取りを通報する予定で、一部では出国禁止になるのではないかとの観測もある。
権力の座に就いた者が追われる時の惨めさは権力の一極集中度が高い韓国の場合、深刻だ。「権力構造のどこかに致命的DNAが内在している」(最大手紙・朝鮮日報)韓国では11人の歴代大統領のうち任期末や退任後に何事もなく無傷だった大統領はほとんどいない。朴氏もまた例外ではなかったわけだ。






