異常な北朝鮮の戦略核開発

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

緊張高まる韓半島情勢

国際的制裁の強化で圧力を

 毎年この時期、米韓共同軍事演習をめぐり情勢が緊迫し、北朝鮮が挑発的行動に及ぶのが常態化している。今年は北朝鮮が弾道弾発射実験を強行したこともあり、米国はステルス戦略爆撃機B2、ステルス戦闘機F22をはじめ、空母、強襲揚陸艦(ヘリ空母)など最新装備の兵力を派遣し、北朝鮮の核兵器開発に圧力をかける姿勢を顕著にした。これに対し、北朝鮮は「無警告で先制攻撃を行う」といった過激極まりない宣言を行ったほか、「スカッド」と見られるミサイルを日本海に向け発射するなどエスカレートする状態にある。これら諸状況に関し、若干の所見を披露したい。

 まず、北朝鮮の核開発であるが、190を超える国が加盟する核拡散防止条約(NPT)に加盟しながら密かに核開発を進め、開発疑惑から脱退に至る交渉で、実に卑劣な対応で関係国・機関を翻弄し、国際的な非難(国連安保理決議1718、1874)を浴びた。にも拘らず開発を強行し、今回は最も強い「国連安保理制裁決議」を受けており、孤立に追い込まれている姿は、非常に憂慮すべき状態である。

 NPTには、「既保有国優先」の差別感から核開発を指向、あるいは非公開保有したインド、パキスタン、イスラエルが非加盟の立場を継続して核開発を行ったが、南アフリカは核兵器を破棄し加盟した。また、加盟国のリビアは核開発計画を公表し破棄、イランはひとまず開発を制限している。これらに比べ北朝鮮の動きは異常としか言いようがない。核弾頭についてはすでに数十個を保有しているとされる。

 運搬手段については、射程1500㌔程度の「ノドン」ミサイルを開発し、保有している。本ミサイルは、旧ソ連製スカッドB(R17、SS1C)をエジプトから入手、改良開発したもので、パキスタン、イラン、リビアへの輸出実績があり、技術的に確立されていると見られる。射程の長いICBMについては、ロシアから技術者を招聘、潜水艦発射ミサイル(R27、SSN6)を開発中と見られており、「ムスダン」あるいは「KN08」のコードネームで呼ばれる車載型のミサイルが軍事パレードに登場している。

 マスコミが伝える「デポドン」は、ノドン、スカッドを多段に組み合わせたテストベッドとの見方が強く、本命はR27系にあると思われる。先日フィリピン沖を経由して弾道弾発射を行ったが、ロケット自体の開発は相当進んでおり、再突入技術、照準技術等が今後の課題であろうと考えられている。

 このような状況から、開発の面からみれば、北朝鮮は発射実験を重ねて核戦略兵器を完成させたい緊張した時期にあり、米韓軍事演習への対抗措置と標榜するのは、国際的制裁を回避したい面があると見ることができる。米韓側は、その状況を承知しながら、かなり露骨な演習シナリオを公表するとともに、従来にない新鋭兵器を参加させて圧力をかけていると見える。

 他方、国連制裁決議により、エネルギー、経済、金融、技術、流通等の各方面から時間をかけてボディーブロー的効果を狙っており、イラン、リビアの核開発計画放棄の成功例をもとに、多方面からの圧力を強めていくものと推察される。

 中国の立場は微妙である。最近、中朝間のひずみが顕著であるが、基本的には中国の玄関先に位置する北朝鮮は、息のかかった国として存在し続けることが望ましい。しかし、核保有国として暴走するのは好ましくないのも事実であろう。あまり厳しすぎる状態に追い込んで、自暴自棄な行動や、内部崩壊により韓国側に統一されるのは面子にかけても許さない選択肢と考えられ、核開発に反対しつつも、体制存続を今後とも指向するものと思われる。

 ロシアは、北朝鮮のロケット開発に主柱的役割を果たしてきたと考えてよいが、安保理常任理事国として、これ以上の技術供与は許されない立場にある。しかし、軍事技術輸出はロシアの軍事力を支えている大きな収入源であること、原油安の影響が大きい国家財政事情もあり、予断を許さない状況にある。

 最後に付け足すならば、数多い北朝鮮のミサイル・ロケット発射は、開発実験の発射もあるが、多分に射耗処理が含まれていることに注目すべきである。北朝鮮ミサイルは殆ど常温維持型の液体燃料であるが、この形態の特徴は、燃料注入後数日から数カ月で発射しなければ燃料タンクの浸食が進み使用できなくなることにある(固体燃料は数十年)。

 しかも、一度注入した液体燃料を抽出するのは難業であり、経費も莫大である。訓練・データ収集を兼ねて射耗すれば、経費は格段に安い。列国ミサイルの処理は耐用年数切れに合わせて訓練射撃を行っているのが実情であり、北朝鮮も同様であろう。従って、発射の回数を細部承知すれば、当該ミサイルが常時使用態勢にある発数が推察できるとも言えるのである。

 この時期、毎年繰り返される韓半島をめぐるせめぎ合いであるが、北朝鮮の戦略ミサイル開発の進捗、強硬な言動、及びこれに対する国際的な制裁発動という緊張が進んだ段階にあり、我が国も列国と歩調を合わせ、多方面から圧力をかけ、北朝鮮が国際的な要求に応ずるよう積極的に働く必要がある。

(すぎやま・しげる)