北京五輪参加なら韓国に影響 -高麗大学 統一外交学部教授 南成旭氏
長寿の家系、専門研究所も
国家情報院傘下の国家安保戦略研究院で院長をしていた頃、私は金正恩氏が後継者になったのを見ながら権力継承に大きな問題はないと判断していた。スイス留学時代の生活を調査した記録を全て把握し、整理していたからだ。
記録によれば、クラスメートとの仲が良く、友達からの評価も無難で、勉強やスポーツで中間の成績だったことなどが判明した。それは自己管理ができることを意味していた。
また精神障害で怒りを抑えられなかったり、女学生とトラブルを起こしたりなどの事件もなかった。北朝鮮で深刻な権力闘争が待ち受けているわけでもなく、この程度なら3代統治に問題はないと思った。10年経過した今、その予想は大方間違っていなかったと言える。
極度の肥満体で健康不安説が絶えないが、北朝鮮には「長寿研究所」という専門の研究機関があって、自分たちのリーダーが長生きする方法を熱心に研究している。祖父や父を見ても長寿の家系だ。まだ30代後半であり、突然死することはあまり考えられない。
正恩氏も慢性的な経済問題を抱えているが、独裁体制を続ける限り、中国のような改革・開放に踏み切ることはできないので、低迷し続けるしかない。国際社会の対北経済制裁、コロナ感染防止のための中国との国境封鎖、水害などの自然災害に見舞われた「3重苦」もあったが、それが体制崩壊や人民暴動につながるシナリオは考えにくい。
韓国に亡命した黄長燁・元朝鮮労働党書記からさまざまな話を聞き、私も平壌へ行ったことがあるが、北朝鮮は資本主義経済の論理が当てはまらない国だ。経済構造の大改革をしない限り、1948年の建国時と類似した状況が続くだろう。
この10年で正恩氏が目標を達成させたものの一つが核保有だろう。核開発をすれば当然、制裁を科せられることは分かっているので、制裁覚悟で核を保有し、米国を揺さぶるという戦略だ。核兵器の数量を増やして米国の譲歩を引き出そうというものだ。だから私は北朝鮮をめぐる非核化交渉はあまり当てにならないと思っている。
そうなるとバイデン米政権はオバマ政権時の「戦略的忍耐」ではなく、「戦略的核保有忍耐」、つまり「核を持ちたければ持て、その代わりわれわれは核放棄するまで制裁を解除しないで待つ」という方針に変わる可能性もある。
来年2月の北京冬季五輪を舞台に、韓国の文在寅大統領が再び正恩氏との首脳会談を実現させる準備をしていると言われる。2000年の南北首脳会談をめぐり対北送金に関与した疑惑が浮上した朴智元氏を国情院長に任命したのも、その一環という見方がある。
仮に中国の人権問題などを理由に米国が北京五輪をボイコットし、一部の西側諸国がこれに追従した場合、習近平国家主席は正恩氏を主役の一人として招待するかもしれない。主役であれば正恩氏が北京入りを拒否する理由はなかろう。
一部で“カネの亡者”と呼ばれる国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長も、北朝鮮に対し国としての参加を認めないという制裁を発表したことについて、興行低迷を憂慮して北朝鮮と裏取引でもすれば、国としての参加に道が開かれる。
翌月の韓国大統領選が接戦になった場合、カギを握る浮動層の一部がこの北京での南北融和に感動し、北朝鮮に融和的な左派が再執権を果たすというシナリオが描かれているのではないだろうか。(談)
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