電力止めたサイバー攻撃、集団防衛も一枚岩になれず
日本安全保障・危機管理学会主任研究員 新田容子氏に聞く
北大西洋条約機構(NATO)加盟国にサイバー攻撃が頻発している。
サイバーは、ハイブリッド戦争のいわゆる軍事行動でもコンフリクトを起こす導入として利用される。最近のドイツ連邦議会、フランスのテレビ局、ウクライナの発電所への攻撃をドイツ連邦憲法擁護庁はロシア側によるものと断言した。ウクライナ侵攻以来、バルト3国、東欧への攻撃が目立つ。
7月のNATO首脳会議ではサイバー防衛を集団安全保障の一部と再確認し、サイバー防衛能力強化で合意したが、どの程度の措置ができるものか。
今の段階では欧州全体に大きなことが起こらない限りやらない。NATOは集団防衛をやる第5条があるが、各国の重要機関にハッキングなど頻繁にやられている一つ一つの事例に発動したことは一度もない。
それはなぜか。
今回のバルト3国などへの四つの大隊配置など表には強みを見せても、NATO28カ国の間で一枚岩になれていない。実際に施行する段階になるとフレームワーク内で情報共有がうまくいかない。
例えば、米国のサイバー部隊の能力はすごい。来年までに130チームつくるという。英国も相当の力を持っている。米英ともNATO加盟国だ。では米国としてNATO各国と情報を共有しようとか、そういうことは全然ない。情報共有するネットワークにつなげるには、28カ国が同じだけのサイバー能力が通用しないといけない。大国だけが秀でていても許されない。サイバーに投資したくない国があるとして、そこのネットワークが緩かったりすると、そこを踏み台にしてサイバーに長(た)けた国が侵入される。NATO首脳会議のコミュニケも歯切れが悪い。
対応は取れないか。
ドイツが今、踏み込んで外交安保政策の一環として包括的戦略を打ち出してきている。国際レベルで縦割りでなく横軸で対応していこうと。
NATOでは情報共有ネットワークの訓練もしている。しばしば会議を行い、ホワイトペーパーも多く出している。しかし、まだ効果は出ていない。
ハイブリッド戦争、サイバー攻撃に対する自衛権発動で報復攻撃はあり得るか。
攻撃が主なオフェンシブな対抗策というのは、今、米国がしきりに言っている。ポーランドも最近、オフェンシブなやり方について文書を出した。ただ、NATOとして使いにくい言葉だ。従って、ディフェンシブ能力を高めるという表現にとどめている。言葉に出してしまうとロシアがさらにやる。ただ、昨年12月にウクライナの発電所がダウンし22万5000人が停電に遭った。命に関わることだ。ウクライナ保安庁はロシアの攻撃によるものと断定したが、どこかの国が対抗措置を取ったということはない。これが今の現実だ。
発電所を止めるなど重要インフラへのサイバー攻撃はほとんどの国ができる。でも、そこはデッドラインだ。一線を越えると本当の地上戦になってしまう。そこは暗黙の了解でやらない。しかし、ロシアはウクライナに対して行った。国益にかなわない事例に見向きもしない。国際政治は熾烈(しれつ)ということだ。
(聞き手=窪田伸雄)











