ロシアの脅威にNATOは万全の備えを


 北大西洋条約機構(NATO)の軍事演習「アナコンダ16」が、ポーランドで実施された。ウクライナ問題でロシアの脅威が高まる中、1989年の民主化以来、ポーランドで行われた最大規模の演習であった。NATOはほぼ同時期に、旧ソ連のバルト3国でも大規模な軍事演習を行った。

 ポーランド民主化後最大

 アナコンダ16には、2014年のウクライナ南部クリミア半島併合後、軍事的な脅威を覚えつつあるNATO側によるロシアへの牽制(けんせい)の狙いがある。東欧での新たなNATO軍の軍事演習は「封じ込めと抑止」戦略への回帰の一環とみられる。

 演習にはNATOのパートナー国ウクライナやジョージアを含む24カ国から計3万1000人以上が参加した。このうち米国からは約1万4000人、ポーランドからは約1万2000人の部隊が加わった。参加車両は約3000両、軍用機やヘリコプターなど航空機は105機、艦艇は12隻に上る。NATO非加盟のスウェーデン、フィンランドの部隊も参加した。

 一方、ロシアのペスコフ大統領報道官は「今回の軍事演習は信頼と安全のムードの醸成に貢献するものではない。残念ながらわれわれは、いまだ相互の信頼不足を目の当たりにしている」と反発した。NATOの盟主の米国が17年の国防予算で、欧州防衛に当てる費用を約34億㌦(約3900億円)と4倍に増加したことも、ロシアの苛立ちの原因となっている。

 ロシアのプーチン大統領は、クリミア併合について「最終的に解決済みの問題」と述べている。しかし、国際社会が「力による現状変更」を認めることはない。

 そもそも、97年に締結した友好協力条約・地位協定で、ウクライナの領土保全を約束したのはロシア自身だ。NATOの軍事演習を批判する前に自らを省みる必要がある。

 軍事演習と並行して、NATO国防相理事会がブリュッセルで開かれ、ロシアへの抑止力強化をめぐる協議でバルト3国とポーランドに4大隊を交代で展開することで合意した。米、英、ドイツなど複数の加盟国がローテーションで部隊を派遣することになっている。

 大隊は通常数百人から1000人で構成されるため、最大約4000人の部隊が展開される。この方針は2月の国防相理事会での協議の結果、合意されていた。

 ただし、NATOは97年にロシアと署名した基本文書によって、東欧への大規模な部隊の恒久的配備は控えることになっており、NATO側はこの原則を維持する方針という。

 抑止力の向上に努めよ

 ストルテンベルグNATO事務総長は、ルーマニアの申し出に基づき黒海周辺の監視のため、同国にも同様の部隊を置く方針を明らかにした。事務総長は「加盟国が攻撃を受ければ、NATO全体が対抗するという明確なメッセージを送ることになる」とロシアを牽制した。具体的な措置に関しては7月のNATO首脳会議で承認される予定だ。抑止力の向上に努め、万全の備えを固める必要がある。