欧州ミサイル防衛(MD)、地域の平和守るために重要
米国による欧州ミサイル防衛(MD)の一環としてルーマニア南部デベゼルに建設された迎撃ミサイル発射基地の運用が開始された。
米国は、ロシアのミサイルを迎撃するのが目的ではないと説明するが、ロシア側は強く反発している。
強く反発するロシア
米国とNATO当局は長年8億㌦(約870億円)もの資金を費やし、デベゼルに初のSM2地上配備型迎撃ミサイル発射基地を建設、ようやく運用開始を宣言した。デベゼルでの運用開始式典にはNATOのストルテンベルグ事務総長や米軍高官が出席した。
主に中東から飛来する短中距離弾道ミサイルを迎撃するものとされている。ルーマニアのヨハニス大統領は、ルーマニアなどNATO東部で「信頼できるNATO戦力の存在を確保することは重要である」と言明した後、ウクライナに面する黒海にもNATOの海軍部隊を常駐させるように訴えた。
一方、ロシアのプーチン大統領は、欧州MDについて「欧米はイランに対抗するためと説明してきたが、(核問題で欧米と合意した)イランに、もはや脅威はない」と強調。ロシアの核戦力の無力化が狙いだと断言した。そして、核戦略のバランスを維持するために「必要なことをすべてやる」と述べた。
もっとも、イランは「ミサイル計画は核問題と関係ない」と訴え、繰り返し弾道ミサイルの発射実験を行っている。イランと北朝鮮はミサイル技術に関し協力を続けている。米国は1月、イランに新たな制裁措置を科した。こうした状況を踏まえれば「脅威はない」とは言い切れないだろう。
米国の欧州MD計画は当初、ブッシュ前政権がポーランドとチェコに迎撃ミサイルとレーダー基地を配備することを想定していた。しかし、オバマ政権はこれを修正して導入技術も変更し、運用もNATO主導にする方針に転じていた。今回運用を開始したシステムは7月、NATO軍司令部に引き渡される。
米国はポーランドでもSM3対空ミサイル発射基地の建設に着手した。2018年末に運用を開始する見通しであり、そうなればMDはグリーンランドからアゾレス諸島までカバーし、NATOは既に地中海にあるレーダーや艦船に加えて、恒久的で四六時中稼働する盾を持つことになる。
米国によるMDの整備は、14年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合を受け、NATOがポーランドとバルト3国に新たな抑止力を準備する中で進んでいる。これに呼応してロシアは自国の西方と南方に3個師団を増強しつつある。
米国の同盟国は協力を
欧州MDをロシアが批判するのは、北朝鮮のミサイル攻撃に対応するため、米地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」を在韓米軍に配備することに中国が反対するのと似ている面がある。
もっとも、米国によるMDは地域の平和と安全を守る上で重要だ。同盟国や友好国の強い支持と協力が米国を支えることになる。