ウクライナ危機と世論調査
友好的な露・ウ両国民
問題を拗らせた欧米の介入
「ウクライナ大統領選挙結果は、一人のオリガルヒ(ポロシェンコ)が別のオリガルヒ(ヤヌコビッチ)に取って代わったに過ぎない」(評論家ポール・クレイグ・ロバーツ元米財務次官)という覚めた見方もある中で、ロシアと欧米の綱引きや、東西分裂含みのウクライナ内政の先行きは予断を許さない。歴史的にも繋がりの深い同じスラブ系の兄弟喧嘩に、欧米が陰に陽に絡んでくるから、拗(こじ)れに拗れてしまった。
ロシア、ウクライナ両国の国民は「ウクライナの危機」をどう見ているのか。現代ロシアでは、大統領といえども世論を全く無視することはできない。最新の世論調査の結果を紹介する。
まず、LC(レバダ・センター)調査(5月30日発表・同月半ば実施)で、「ポロシェンコ大統領選出について」、「肯定的」は13%、「否定的」は40%、回答困難47%だった。「ウクライナの複雑な情勢はどこに向かうと思うか」の問いに、「内戦」との回答は40%で、4月調査の47%より減った。「正常化」は17%(4月11%)。ウクライナ情勢の好転を期待している回答者が多い。
「ウクライナを今、どう思っているか」の問いに、「良い」35%、「悪い」49%で、回答困難が17%。3月調査では、それぞれ63%、25%、12%だった。2カ月のあいだに逆転した。
一方、KMIS(キエフ国際社会学研究所)の調査(4月半ば実施)では、「ロシアを今、どう思っているか」の設問に、「良い」52%が「悪い」38%を上回っている。2月調査ではそれぞれ79%、13%だった。ロシアとウクライナの調査時期に若干ずれがあるが、ウクライナ国民のほうがロシアを好感していることがうかがえる。
LC調査は「両国関係について三つの意見」を提示して賛成を求めた。①「両国関係は対第三国並みに(国境、ビザ、関税を適用)すべき」は28%(3月16%、1月19%、昨年10月23%)。②「互いに独立しながらも友好的(開かれた国境、ビザや関税不要)であるべき」が54%(同50%、59%、55%)で、③「両国は一つの国に合併すべき」は12%(同28%、16%、16%)という結果だった。
KMISも全く同じ調査を実施した。①について、4月調査は32%、2月15%、昨年9月12%で、②に賛成したのはそれぞれ54%、68%、73%だった。③への賛成は8%、12%、12%で、ロシア、ウクライナともに合併を望む声は少ない。一方で、どちらの調査でも②の「友好的」関係に賛成が過半数を占めた。
LCは「ウクライナ人、ウクライナ住民をどう思うか」、KMISは「ロシア人、ロシア住民をどう思うか」という設問をぶつけた。LC5月14日調査では「良い」81%(うち「極めて良い」22%)で、「悪い」12%(うち「極めて悪い」2%)。5月9日「良い」75%(同7%)、「悪い」18%(同3%)、昨年10月「良い」81%(同10%)。5月の5日間で、「良い」が6ポイント、「極めて良い」が15ポイントも増えた。KMISの4月調査によれば、「良い」80%(同32%)、「悪い」14%(同4%)であった。クリミア自治共和国とセバストーポリ特別区のロシア編入(3月18日)のあとにもかかわらず、ウクライナの世論は、ロシア人をあまり悪く思っていない。相手の国の政治指導者に対してそれぞれの世論はどう思っているのだろうか。LC5月調査では、ウクライナ指導部に対して「良い」は11%(うち「極めて良い」は3%)で、「悪い」は79%(うち「極めて悪い」50%)であった。KMIS4月調査によると、「良い」19%(うち「極めて良い」9%)、「悪い」71%(うち「極めて悪い」56%)。ロシア、ウクライナのどちらの世論も、互いに相手の国民には好感を抱くが、指導者には批判的ということであろう。
次に、WCIOM(全ロシア世論調査研究センター)によるウクライナ大統領選挙前の調査(5月23日発表)によれば、ロシアでの候補者の知名度の点でユリア・ティモシェンコ(元首相)が82%と圧倒的に高かった。2位はドミトリー・ヤロシ(極右「右派セクター」リーダー)で47%、大統領に当選したペトロ・ポロシェンコ(元外相、経済発展貿易相)は35%で3位だった。ロシアで報じられた頻度の順であろう。
大統領選挙後のウクライナ情勢について、「変わらない」が36%、「より緊迫する」35%で、「正常化する」はわずかに8%。「大統領選挙の結果をロシアは認めるべきかどうか」の設問に、「どちらかと言えば、認めるべき」は35%、「どちらかと言えば、認めるべきでない」は39%と、ほぼ相半ばした。
最後に、FOM(「世論」基金)5月23日発表の調査によれば、「西側諸国はウクライナに干渉すべきか否か」との設問に、「干渉すべき」はわずかに8%で、79%は「干渉反対」という結果が出た。「ロシアは干渉すべきかどうか」の問いに、「干渉すべき」は35%、「干渉すべきでない」36%と拮抗した。
世論調査で見る限り、親類縁者が広くまたがっている両国国民は、庶民レベルではお互いに友好的関係でありたいと願っている。兄弟の血縁は争えない。第三者が容喙すると、事が面倒になるのである。
(なかざわ・たかゆき)