極右台頭とEUの曲がり角
アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員 加瀬 みき
欧州危機救済後の矛盾
対中・露政策で一致できず
欧州連合(EU)では22~25日に欧州議会の選挙が行われている。一般市民から遠い存在で関心を持たれない欧州議会の選挙は投票率も低い。しかし、今年の選挙は結果がアメリカ、中国、日本と並ぶ経済圏でもあるEUの在り方を大きく左右するとして注目された。
ユーロ危機が破滅をもたらすかと心配されたEUだがその恐れは去った。暴騰していたスペインなどの国債のイールドもすっかり下がった。しかし、多くの国で高失業率が続き、高額の債務を抱え、企業は競争力を失ったままである。そんな中、統合を進めることで平和と経済発展をもたらすはずの欧州統合プロジェクトへの反発が強まり、反EUの旗を掲げる極右派が各国で台頭している。
フランスでは3月の市町村議会選挙で極右派国民戦線(FN)が大きく票を伸ばし、欧州議会選挙でも政府・社会党や穏健右派の国民運動連合(UMP)を超え、2割強の票を獲得すると予測されていた。党首は笑顔で攻撃の矢を射る女性マリーヌ・ル・ペン。前党首の父は、2002年の大統領選挙では第1ラウンドで社会党のジョスパン首相を抜き、第2位の得票率を得、世界を仰天させた。最終ラウンドでは極端な排他主義と反ユダヤ主義が災いし、UMPのシラク大統領に大敗した。娘は排他主義をフランスの文化や社会を取り戻すという言葉で覆っている。
ハンガリーではジョビック党が第3政党にのし上がったが、激しい排他主義、反ユダヤ主義を掲げ、白と黒の制服と帽子に身を固めた自警団を組織し、ジプシーを攻撃していると言われる。ギリシャでは黄金の暁党が、ギリシャ人の許可なく母国に踏み入る外国人を許さないと、こちらもあからさまな排他主義を掲げている。
オランダでは、イスラム教は宗教ではなくイデオロギーであるとして、イスラムの伝統や文化を否定するウィルダース率いる自由党がEU脱退を訴えている。EU内最大の経済大国であるドイツでも、ドイツは「欧州合衆国」の一員であるべきではないと主張するドイツ代替党が躍進している。そもそも欧州統合に対し懐疑的でユーロにも加盟していない英国では、独立党(UKIP)が地方選挙で大躍進を遂げ、欧州議会選挙でも主流の2党を抜く勢いである。その他でもイタリアでは五つ星運動、デンマークでは人民党、スウェーデンでも民主党と反EUを掲げる超右派が市民の支持を得ている。
EU市民の反EU気運は今に始まったことではない。直接選挙で選べないEUの組織指導者や官僚に権力が集中すること、自分たちの代表でないその人々が決定する政策への反感がつのっていた。これがはっきりと表明されたのが05年、はじめて市民がEUの在り方に対し意見を求められたEU憲法条約批准を問う国民投票であった。EEC創設国であるフランスとオランダ国民が批准を拒否した。拒否をおそれた10カ国では投票すら行われなかった。
08年からのユーロ危機では、ユーロ死守のために欧州中央銀行や欧州委員会の権力がさらに強くなり、厳しい緊縮財政を迫られた債務国でも「放蕩息子」救済のために自国の税金が使われたと感じる債権国でも、反EU感情が高まった。
FNやジョビック党が本選挙で2割の票を獲得しても、こうした党から大統領が生まれたり、それぞれの国の議会で多数を握ることはまずない。また反EUという共通点はあるものの、それ以外の政策や姿勢は異なり、例えばFNはナチス型掲揚をする黄金の暁党とは距離を置くし、ル・ペンはUKIPのファラージ党首に反ユダヤ主義のお荷物を抱えていると批判されるなど、多数の極右党が団結することもない。
しかし、極右党の台頭は主流党に影響を与え、EU政策を変える可能性がある。フランスでは80年代FNが反移民政策を掲げ支持を得たことにより、主流2党も反移民政策を打ち出した。現ル・ペン党首はNATOからの脱退、通貨をフランに戻し、フランスのEU加盟の是非を国民投票にかけることを提案している。
FNが本選挙で大きく票を伸ばせば、EUの核であるフランスでは少なくとも統合の深化を逆転させる声が高くなる。英国のキャメロン首相(保守党)はUKIPの台頭に押され、次の総選挙で保守党が勝利した場合は、英国がEUから脱退すべきかを国民投票にかけることを約束した。
反EUを訴える市民は、単に昔を懐かしがる人々、あるいはグローバル化に取り残された人々かもしれない。とはいえ欧州統合が民主的に行われてこなかったことは間違いない。市民に制度や組織の在り方や政策を問うこともなく進んできた統合プロジェクトは明らかに限界にきている。
一方、ロシアのクリミア併合やウクライナを巡る強硬姿勢にEUは一致した政策を打ち出せず、それがプーチン大統領に付け入られる弱点となっている。安全保障、エネルギー、さらには経済復活、安定的な成長から対中政策など、一致した政策をとらなければ、EUは大きさに相当した実力を発揮することも経済成長を望むこともできない。しかし、そのためにはあらゆる分野での統合の深化が必要となる。
これはまさに多くの市民が反対する国家主権の喪失、非民主主義的政策決定に繋がる。欧州統合プロジェクトはむずかしい曲がり角に来ている。(敬称略)
(かせ・みき)