モロッコとの対立激化でアルジェリアが中露接近と警告するMEE
西サハラめぐり敵対
アフリカ大陸の北西端、モロッコと隣国アルジェリアの間の緊張が高まっている。それとともに、モロッコが欧州への接近を模索、アルジェリアをロシア、中国が支援するなど、北アフリカに新たな対立軸が生まれようとしている。英ロンドンを拠点する中東専門ニュースサイト、ミドルイースト・アイ(MEE)は、「モロッコ・アルジェリア緊迫―ラバトは戦争の準備をしているのか」と警告した。
モロッコ出身のジャーナリスト、アリ・ルンラベット氏はMEEで、「ここ数週間、モロッコがドイツ、スペイン、欧州連合(EU)との関係を再構築することを計画しているという話が伝わっている」と、モロッコ政府が欧州との関係改善に向かっていることを指摘した。
モロッコは2020年12月、トランプ米政権の中東和平協定「アブラハム合意」に加わるかたちでイスラエルと国交樹立に合意した。アラブ連盟加盟国としてもともとイスラエルとは距離を置いてきたモロッコだが、1990年代には連絡事務所を開設するなど、イスラエルとの関係を模索していた。
米国は、イスラエルとの国交の見返りに、係争地「西サハラ」のモロッコによる領有と、無人機の売却を承認した。モロッコとしてはいいことずくめだ。ただ、西サハラの独立を主張する「ポリサリオ戦線」が強く反発、戦線を支援する隣国アルジェリアとの関係まで悪化し、一触即発の事態にまで発展している。
欧州にモロッコ譲歩
国連や欧州各国は、西サハラを係争地としており、実効支配するモロッコがこれに反発、欧州との関係は良くない。ルンラベット氏は、西サハラをめぐってアルジェリアとの対立が激化したことで、「モロッコ政府は、欧州に譲歩し、信用できない敵対国アルジェリアへの対応に専念しようとしている」と指摘、「アルジェリアは公然の敵対国から、憎むべき敵国へと急速に変わっている」と緊張が高まっていることを指摘した。
ドイツとモロッコは、モロッコ批判を続けるモロッコ系ドイツ人への対応をめぐっても対立。モロッコの国王ムハンマド6世が、名指しは避けながらも、ドイツの対応に不満を訴えている。
スペインとの関係もこのところ悪化していた。スペインがポリサリオ戦線の指導者ブラヒム・ガリ氏を新型コロナウイルスの治療のため受け入れたことに強く反発。モロッコ北部のスペイン領セウタに大量の不法移民が入り込むのをモロッコ当局が黙認したとして両国関係は悪化していた。ところが、アルジェリアが、「戦争も辞さない」とモロッコに対する姿勢を硬化させたことにモロッコ政府は危機感を抱き、欧州、米国への接近にかじを切ったようだ。
だがそのアルジェリアに中露が接近、モロッコを軸に欧米対中露という新たな火種が生まれようとしている。
米誌ニューズウィークは、「アルジェリアが中国の兵器になる」と指摘した。アルジェリアは、8月にモロッコと断交、9月にはモロッコ機の領空通過を禁止、さらにはモロッコ経由でスペイン、ポルトガルに天然ガスを送るパイプラインを閉鎖した。
危険なチキンゲーム
ニューズウィークは、もともと両国の関係は悪く、一連の措置は「大したことではない」と指摘、重要なのは「アルジェリアが、混乱を招くロシアと中国の駒になることだ」と訴えている。ロシアは、北アフリカでの軍事プレゼンスの強化を望み、中国はアフリカ支配と、親米のモロッコへの対抗が狙いとみられている。
さらに、イスラエルが軍事面でモロッコを支援、無人機の製造を支援し、イスラエルの軍事演習にモロッコ軍の特殊部隊が参加したことも伝えられている。
ルンラベット氏は、モロッコとアルジェリアの「危険なチキンゲーム」が「どのような展開を見せるかは予測不能」と両国間の対立激化に警鐘を鳴らした。
(本田隆文)