科学的知見を誘導的に並べてジェンダー思想に「洗脳」するNスペ

番組の内容には明らかに、視聴者に誤った誘導をさせる意図が見える。

特異な事例を普遍化
 4日朝、新聞のテレビ番組欄を見ると、NHKスペシャル(Nスペ)「ジェンダーサイエンス―男X女『性の真実』 女脳・男脳はあるの? 人類進化と“中性化”」が目に留まった。その瞬間、科学的なデータや知見を使って、男女の性差を否定するジェンダー思想やLGBT(性的少数者)運動を正当化するのだろうと、ピンときた。

 実際、番組を見ると、予想通りだった。人間の性(男女)の分化には、「男らしさ」を構成する性ホルモン「テストステロン」が大きく関わっており、精巣からの出具合次第で性染色体がXY(一般的には男性になる)でも外性器が女性になる場合があることや、脳の性差にも影響し、男女どちらともいえない人(Xジェンダー)も存在することなどを紹介した。

 だが、それらはすでに知られていることで、紹介された内容には何一つ目新しいものはなかった。そんな中で、最後に流れたナレーションは番組の狙いを端的に表していた。

 「最新科学が突き止めた体の仕組みを知ると、男女を隔てるジェンダー意識やLGBTは自分と違うという考えは、思い込みであるということが分かる」。要するに、科学的な知見を使い特異な事例を普遍化して、ジェンダー思想を視聴者に植え付けようという“洗脳番組”だったのだ。

 そうはいっても、科学的な知見を交えて解説されると、これからは男女に分けない方がいいのではないか、と思い込む視聴者はいるだろう。また、性分化や脳の専門家でもない筆者が「洗脳番組だった」といくら叫んでも過激に聞こえるだけで説得力はない。しかし、専門家にもNスペを洗脳番組と評した人がいる。

動物行動学者が酷評

 性差に関する数多くの著書を持つ動物行動学者の竹内久美子はツイッターで「何十万年単位で起きているテストステロンレヴェルの低下とこの十数年間のそれとを一緒にしている。やはり洗脳番組だった」と酷評している。

 これには説明がいる。30万年前の初期ホモサピエンスの頭蓋骨を調べると、男女に差がある。眉の部分の隆起が女性より男性が高いのだ。これはテストステロンの多さに関係するので、隆起が高い男はテストステロンが今よりもずっと多かったことを示す。しかし、8万~5万年前の間に眉の隆起が低くなった。テストステロンが減ったからだ。

 その原因は、仲間と協力し合う集団社会が芽生えたことで、狩猟生活で有利だった攻撃的な男性よりも、テストステロンが少なく協調性のある男性の方が生存に有利となって、そのため眉の隆起が低くなったという。さらに「仲間と協力し社会を築くことで生き延びる、その選択をした瞬間から人類は中性化という『宿命』を背負い続けている」というのだ。

 この前段で、番組は男性のテストステロンが過去16年で25%減少したことや、異性に対する関心や性欲も弱い男性の増加を紹介していたが、これは人類の中性化の証左であるというわけだ。

 だが、賢明な視聴者なら、竹内が指摘したように、10万年単位で起きることと現在起きていることを同列に考えることの愚に気付くのではないか。今の男性が、精子が少なかったり、“草食化”している原因は、運動不足や食生活などだと言われており、人類の中性化とは別レベルの問題である。

家族破壊運動を推進

 このように事実の並べ方が誘導的であるなど、突っ込みどころ満載の番組だったが、たとえ人類の中性化が事実だったとしてもそれは数万年単位のこと。番組はそれを「宿命」とすることで、男女の性差を否定するジェンダー思想や、あらゆる性的指向や性自認を容認する過激なLGBT運動を正当化しようとしたのだ。

 しかも、出演した京都大学教授の明和政子は、中性化によって起きる少子化問題は、生殖医療によって「解決できる」と述べた。同性カップルやシングルにも生殖医療で子供を生んでもらえばいいというわけか。NHKは科学番組も動員して、同性婚の制度化など家族破壊運動を進めているのだ。

(敬称略)

(森田清策)