旅客機強制着陸、ベラルーシへの圧力強めよ


 ベラルーシ当局が領空を飛行していた旅客機を首都ミンスクの空港に緊急着陸させ、搭乗していた反体制派メディアの創設者が拘束された。民間航空機と乗客の安全を脅かす暴挙であり、国際社会はベラルーシへの批判と圧力を強めるべきだ。

 反体制派拘束のため

 緊急着陸したのは、ギリシャ発リトアニア行きのアイルランドのライアンエア機。ベラルーシ当局に「爆発物の情報がある」と通知され、ミンスクの空港に着陸するよう指示された。ベラルーシ軍のミグ29戦闘機が発進して誘導したが、爆発物は見つからなかった。

 ベラルーシのルカシェンコ政権が反体制派拘束のために着陸させたとみていい。ベラルーシは着陸要請が「合法的」だったと説明しているが、弾圧のため、なりふり構わぬ手段を取る姿勢は常軌を逸していると言わざるを得ない。

 拘束されたのは反体制派メディア「NEXTA」の共同創設者で元編集者のロマン・プロタセビッチ氏。昨年ポーランドに亡命し、ベラルーシはプロタセビッチ氏がデモを扇動したとしてポーランドに身柄引き渡しを求めていた。

 1994年に大統領に就任したルカシェンコ大統領は「欧州最後の独裁者」と呼ばれる。ベラルーシでは昨年8月の大統領選をめぐって国内外で不正が指摘され、ルカシェンコ氏の辞任を求める抗議デモが続いた。

 しかし、隣国ロシアの後ろ盾を得たルカシェンコ氏が巻き返し、反体制派を徹底弾圧。今月には主要な独立系メディア「トゥット・バイ」の事務所を捜索し、サイトを遮断するなど取り締まりが続いていた。言論の自由を認めようとしない強権支配は容認できない。

 今回の問題で、欧州連合(EU)はEU領空からベラルーシの航空会社を締め出し、経済制裁を科すことを決定。米国も緩和していたベラルーシの国営企業9社への制裁を6月3日付で再発動するとともに、ルカシェンコ政権の主要メンバーに制裁を科す準備を進めている。また国連安全保障理事会は非公式に協議し、欧州7カ国と米国は「国際民間航空の安全と欧州の安全保障に対する目に余る攻撃で、国際法を甚だしく無視している」とする声明を発表した。

 もっとも常任理事国ロシアはベラルーシを擁護する立場で、安保理が一致するのは困難な情勢だ。国際法に反するベラルーシの責任を追及できないロシアが、常任理事国にふさわしいとは思えない。

 ルカシェンコ氏はロシアのプーチン大統領と会談し、欧米が政権転覆を図ろうとしていると主張。プーチン氏はルカシェンコ氏を擁護して「対欧米」で結束を確認した。

 日本は踏み込んだ対応を

 今回の問題について、加藤勝信官房長官は「特定の乗客を恣意(しい)的に拘束したことは不当で強く非難する。即時釈放を求める」と強調。ただ、制裁をめぐっては「国際社会と緊密に連携を図って対応していく」と述べるにとどめた。中国やミャンマーに対してもそうだが、各国の人権侵害で日本はもっと踏み込んだ対応を取るべきではないか。