英TPP申請、自由度高いルールを広げよ


 英国が環太平洋連携協定(TPP)への参加を申請した。今春にも、参加交渉が始まる。発足メンバー国以外の国からの参加申請は初めてとなる。英国の申請を契機として、日本が主導してきたTPPの拡大機運が高まりそうだ。

 EU離脱後の通商の柱に

 TPPは日本など11カ国で構成し、2018年12月に発効した通商ルールの枠組み。関税や電子商取引、投資に関する自由度の高さが特徴だ。最終的な関税撤廃率は95~100%に達する。日本は今年のTPP議長国を務める。

 英国は欧州連合(EU)離脱後に可能となった独自の通商戦略の柱にTPPを位置付けている。貿易量の減少が懸念される中、経済成長を続けるアジア太平洋地域との結び付きを強めることを目指している。

 英国とTPP参加国との昨年の貿易額は1110億ポンド(およそ15兆8000億円)。英国が参加すれば、世界全体の国内総生産(GDP)に占めるTPP参加国の比率は13%から16%に上昇する。

 TPP拡大の1カ国目が、欧州の英国になる意義は大きい。国際社会にTPPを標準とする自由貿易体制を普及させる大きな一歩となり得るからだ。英国同様に参加への関心を示してきた韓国や台湾、タイなどが加盟する呼び水にもなろう。

 中国の習近平国家主席は昨年11月、TPP参加を「前向きに検討する」と初めて表明した。ただ中国の参加は、国有企業改革や知的財産権保護強化、補助金削減、関税の引き下げなど克服しなければならない難題が多い。もともとTPPは、国際的な影響力を増す中国に対抗する枠組みという側面があった。

 英国は、日本との間で1月に発効した経済連携協定(EPA)の交渉でも、自由度の高い通商ルール形成に前向きな姿勢が見られた。日本は高レベルのルールを受け入れるという加盟条件を堅持して、英国と交渉することが肝要だ。

 TPP域内では人・モノ・カネが行き交うだけでなく、高次元の行政ルールの統一も行われる。このため安全保障上の問題が生じても、経済的側面を重視し、より平和的なアプローチを取るよう加盟国の連帯が進むことになる。

 貿易に欠かせない海上交通路(シーレーン)の安定を確保することも各国共通の利益となるため、強引な海洋進出で覇権拡大を目指す中国にブレーキをかけることもできる。域内の緊密な経済関係によってアジア太平洋地域の安定を促進することが、安全保障面でも大きな役割を果たし得る。

 米に復帰を働き掛けよ

 TPPは、米国がトランプ前政権時の2017年1月に離脱するまでは12カ国で構成されていた。バイデン政権は新型コロナウイルスの感染対策と経済再建を優先する方針で、TPPへの早期の復帰には慎重な姿勢を示している。

 日本としては通商を含む幅広い分野で、同盟国である米国と緊密な連携を図っていくのは当然である。バイデン政権にもTPPへの復帰を働き掛ける必要がある。