韓国国防白書 北の脅威を直視しているのか


 韓国国防省が「2020国防白書」を発表した。北朝鮮の核や弾道ミサイルなど大量破壊兵器を「脅威」と位置付ける一方、北朝鮮の政権と軍を「敵」と明記せず、有事の軍事上の作戦統制権を能力も経験も不安視される韓国軍に移譲させることを急ぐと強調した。どこまで北の脅威を直視しているのか疑問を抱かざるを得ない。

「敵」の表現を避ける

 いうまでもなく韓国は日本以上に北朝鮮の軍事的脅威に直面し続けている。これを抑止するには、米国との同盟関係を強化するのはもちろんのこと、安全保障で日本との協力も欠かせない。日本としても韓国には北朝鮮の脅威に断固たる姿勢で臨んでもらわなければ困る。

 その意味で今回の国防白書には、いくつかの点で不安を掻(か)き立てられる。

 白書は「外部の軍事的脅威」について「韓国の主権、国土、国民、財産を脅かし侵害する勢力を敵とみなす」とし、北朝鮮を名指しせず一般的な言い方をするにとどめた。文在寅政権下では2度目の白書だが、いずれも北朝鮮を「主敵」や「敵」と表現するのを避けている。

 作戦統制権の韓国軍移譲で白書は「加速化」すると繰り返し述べた。以前の白書より踏み込んだ表現だ。

 先月、金正恩朝鮮労働党総書記が強調した核・ミサイル兵器の増強方針や最近の軍事パレードで登場した各種兵器を見る限り、北の脅威により一層警戒を強めなければならない。半面、米韓合同演習は縮小され、作戦統制権の韓国軍移譲を円滑に進められる状況とは言えない。「加速化」は韓国の抑止力を逆に弱めるのではないか。

 白書は2018年の3度の南北首脳会談と初の米朝首脳会談を「朝鮮半島の非核化と平和政策のための新たな安保環境をつくった」と高く評価した。だが、これほど首脳会談を重ねても北朝鮮非核化や平和定着が一向に進まなかったのが現実だ。安保環境は厳しいままである。

 今年、任期最後の年を迎える文政権はレガシー(政治的遺産)づくりへ半島の平和定着で功績を残し、来年3月の次期大統領選に弾みを付けたい考えとみられている。白書から北の脅威を警戒する記述が減っているのは、こうした政権の事情を反映させた結果だとすれば残念だ。

 白書には日本について関係悪化を煽(あお)るような記述もある。「同伴者」と位置付けていた日本のことを「隣国」と称し、18年に韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊の哨戒機をレーダー照射した事件について、日本による「事実を糊塗する一方的発表」と指摘。両国の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を韓国側が終了させると一時示唆した経緯では、責任を日本側に転嫁した。

 日米韓の安保連携より国内政治に配慮した日本批判を優先させているようで残念だ。

中国にもおもねるのか

 北朝鮮のミサイル迎撃のため韓国に配備された高高度防衛ミサイル(THAAD)に中国が反発している問題で、白書は中国の姿勢を批判するどころか言及すらしなかった。これでは北朝鮮だけでなく中国にもおもねっていると誤解されかねない。