英国防費増額へ、国際的役割の拡大を期待
ジョンソン英首相が国防費の大規模な増額を発表した。中国やロシアへの警戒感が強まっていることが背景にある。
国防費拡大は、軍事大国としての地位を維持する努力において米中に大きく後れを取っている英国の立場を変更する意思表明と言える。
中露の脅威への対抗
ジョンソン氏は向こう4年間に追加で165億ポンド(約2兆2770億円)の国防費を計上する方針を示した。現在の国防費は年間420億ポンド弱。計画では2021年に10%、24年に2%増額するという。これは過去30年間で最大の外交・安全保障政策見直しの第1段階で、冷戦終結後最大の国防支出となる。
また「国際情勢はより危険度を増しており、冷戦以来最も競争が激化している」と述べ、新型コロナウイルスの危機下でも国防支出増額の決断を下したと説明。北大西洋条約機構(NATO)で米国に次ぐ規模の国としての地位を確固たるものにすると強調した。
ジョンソン氏は人工知能(AI)を専門に扱う新省庁と「サイバー軍」の創設、宇宙利用などに力を注ぐとしている。サイバー戦略強化は中国やロシアの脅威を念頭に置いたものだ。宇宙利用に関しても、中露による宇宙の軍事化に対抗する意図がある。最先端の軍事力を備えることで、欧州連合(EU)離脱後の国際社会における役割の明確化を目指し、行動に移ることになる。
英国は中国と香港国家安全維持法(国安法)や中国通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)などをめぐって激しく対立している。国安法は1984年の英中共同声明に盛り込まれた「一国二制度」を形骸化させ、香港への統制を強めるものだ。共産党一党独裁体制の中国が存在感を高める中、民主主義陣営の一員である英国の国際的役割の拡大が期待される。
日英は13年7月、防衛装備品・技術移転協定に署名。日本が米国以外でこのような枠組みで合意するのは英国が初めてだった。17年1月には、燃料や弾薬を融通する物品役務相互提供協定(ACSA)に署名した。
日本政府は、自衛隊と外国軍が共同訓練で相互訪問する際の法的地位を定める「円滑化協定」の締結国拡大の本格的な検討に入った。大枠合意したオーストラリアに加え、英国やフランス、インドなどとの締結で中国を牽制(けんせい)することを狙う。一方、英国では英語圏5カ国の機密情報共有枠組み「ファイブアイズ」への日本の参加を促す発言が相次いでいる。
菅義偉首相は今年9月、ジョンソン氏との初めての電話会談で「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現に向け、安保協力を強化する考えで一致。今国会の所信表明演説では、日英の経済連携協定(EPA)を発効させることで「日系企業のビジネスの継続性を確保する」ことを強調した。
「準同盟」関係の強化を
英空母「クイーン・エリザベス」については、極東地域で日本や米国との共同訓練が計画されていると報じられている。日本は英国との「準同盟」関係を強化すべきだ。