英総選挙 離脱めぐる混迷に終止符


 欧州連合(EU)離脱問題を最大の争点にした英国の総選挙は、ボリス・ジョンソン首相率いる保守党の圧勝に終わった。来年1月末のEU離脱が実現する見通しとなり、3年半にわたる混迷に終止符が打たれた。

「合意なき離脱」を回避

 来年1月末の離脱から移行期間は11カ月。その間に自由貿易協定(FTA)をEUとの間で合意しなければならないが、何より「合意なき離脱」という最悪の事態が回避されたことを歓迎したい。進出企業や市場も一安心という反応だ。

 EU離脱問題は、英国の国論を二分するばかりか、同国の政治、経済を宙づり状態に置いてきた。2016年の国民投票によって離脱を決めたものの、メイ前首相がEUと合意した離脱案は下院で三たび否決された。

 新しく首相となったジョンソン氏が改めてEUと交渉しまとめた新たな離脱案も採決が先送りされた。当初、今年3月末に予定されていた離脱期限は来年1月に延長された。

 こういう状況に英国民は、苛(いら)立ちや“離脱疲れ”さえ覚えていた。ジョンソン首相の「EU離脱を成し遂げ、国を前に進めよう」という主張はEU残留派にも強く響くものがあったと思われる。英国民は何より混迷への終止符を望んだのだ。

 ジョンソン首相がEU離脱問題を最大の争点に掲げて中央突破を図ったのに対し、最大野党の労働党は国民投票の再実施を主張し、肝心の離脱の是非を曖昧にした。そして医療制度や社会格差問題を争点にするという姑息(こそく)な戦術に出た。その結果、41議席を失う大敗となった。

 国が直面している問題から国民の目をそらすポピュリズム的な選挙戦術は、責任政党としての役割を放棄するものだった。保守党の大勝はジョンソン首相の戦術の巧みさもあるが、国家が直面する最大の問題を掲げ、国民の信を問うのが本来の選挙の在り方であり、政治家の役割は政治を前へ進めることであることを示すものと言えよう。

 政府の足を引っ張ることしか考えない野党、決断と実行力に欠ける政府・与党などわが国の政治家も参考にすべきである。

 今回、保守党が地滑り的大勝によって、サッチャー保守政権以来の議席を獲得したことの意味するところ、その背景をよく分析する必要がある。

 ジョンソン首相が、イングランド北部の労働党の地盤に乗り込んで離脱実現を訴えたことが奏功したとみられるが、それは同首相の庶民的なキャラクターが労働党支持者に受け入れられただけではない。英国民にとって、長年のEUとの結び付きや単一市場による恩恵以上に大切なものがあることを示しているとも言える。

統合後退の流れ強まるか

 これまで英国は、単一市場に参加しても単一通貨ユーロには参加せず、政治統合の深化には否定的だった。英国の離脱にはさまざまな要因があるが、EUによる主権の制限を嫌ったことが小さくない。離脱は英国とEUとの関係に一つの終止符を打つことであるとともに、経済統合から政治統合への歩みが大きく後退した流れを決定付ける可能性もある。