NATO首脳会議 亀裂を深め中露の増長招くな


 北大西洋条約機構(NATO)は英ロンドンで創設70年を記念した首脳会議を開き、同盟の根幹である集団防衛の義務を改めて確認する「ロンドン宣言」を採択した。

欧州で対中警戒感強まる

 宣言には、対中国やサイバー防衛など時代の変化に即した今後の戦略強化も盛り込んだ。旧ソ連とロシアの脅威に対抗することを主眼としていたNATOが、中国の台頭を新たな脅威として首脳会議で取り上げたのは初めてだ。

 背景には、シルクロード経済圏構想「一帯一路」の下、欧州にも触手を伸ばす中国に警戒感が強まっていることがある。中国の習近平国家主席は11月、ギリシャを公式訪問し、同国最大のピレウス港への投資促進などを含む覚書に署名した。

 イタリアなど欧州連合(EU)加盟国の半数以上が、一帯一路に関する協力文書に署名していることも懸念材料だ。NATOのストルテンベルグ事務総長が「欧州のインフラに対する莫大な投資やサイバー空間でも中国を目にしている」と指摘し、NATOで中国の脅威を議論する意義を強調したことは当然だと言えよう。

 一方、首脳会議では加盟国の足並みの乱れも目立った。最大の課題は、トランプ米大統領が負担の偏りに不満を募らせ、分担に向けて欧州各国に迫る国防支出の増額だ。「2024年までに国内総生産(GDP)比2%以上」という国防支出目標について今年到達を見込むのは、ロシアへの警戒感が強い東欧諸国やバルト3国など9カ国にとどまっている。

 08年のジョージア(グルジア)紛争や、14年のウクライナ南部クリミア併合などでロシアの脅威も高まっている。こうした中、欧州の主要国であるドイツやフランスが国防支出目標を達成できていないことは問題だ。両国をはじめとする未達成国は支出増に努める必要がある。

 NATOをめぐってはフランスのマクロン大統領が11月、英誌のインタビューで機能不全に陥っているとして「脳死状態」と現状を批判。米軍が10月、他の加盟国と調整せずにシリア北部からの撤退を決めたことを受けての発言だが、これをトランプ氏やトルコのエルドアン大統領が非難して不協和音が一気に増幅した経緯がある。

 首脳会議では、次世代通信規格「5G」普及をにらんだサイバー空間での新たな防衛策の内容を確認した。ただ中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)に関しては、安全保障上の脅威に当たるとして機器を排除する米国と、既に同社製品が大きなシェアを占めている欧州とでは対応に違いが見られる。

 5Gは国家情報網や軍事力を大きく左右する。米国の対中認識の厳しさに比べ、欧州にはまだ甘さがあるのではないか。マクロン氏がロシアについて「皆が敵と見なしているとは思わない」と述べたことも気掛かりだ。

同盟強化で抑止力向上を

 NATO加盟国間の亀裂が深まれば、中国やロシアの増長を招きかねない。加盟各国は地域の安定や発展のために結束し、同盟強化による抑止力向上に取り組むべきだ。