「アジアと欧州の同盟」を研究 笹川財団

 笹川平和財団は10月24日、「日米同盟は不公平か?」をテーマにパネル講演会を開催。昨年から1年かけて「アジアと欧州の同盟」を比較研究した結果を報告し、対中国で対峙(たいじ)する台湾と日本の間で公的な協力関係が結べない基本的な問題が存在することを浮き彫りにした。
(池永達夫)

対中、日台協力に課題
対露最前線国の関係緊密

 同研究は、ポーランドのカシミール・プラスキー財団(CPF)の協力を得て、ポーランド、リトアニアおよびドイツの対米同盟のバランスシートに関する調査を行ったもの。「同盟のバランスシート」とは、同盟国の貢献の強みを「資産」、弱みを「負債」とするバランスシート化で同盟関係の鳥瞰(ちょうかん)図を描こうというものだ。

800

笹川平和財団ビルで開催された「日米同盟は不公平か?」パネル講演会

 研究の特質は、米国の同盟国である日本やポーランドの地政学的な位置付けにある。東アジアの脅威は軍事力を誇示した拡張主義傾向が強い中国、欧州では領域や勢力圏の拡大を図るロシアとなる。それぞれの最前線国を台湾、リトアニアとし、後方に位置する国として日本、ポーランドに光を当てている。

 まずCPFのカミル・マズレク氏が、対米関係におけるリトアニアの「資産」を、北大西洋条約機構(NATO)の共通目標であるGDP比2%を超える防衛予算と急速な軍の拡大と近代化、高い即応体制と動員体制などを挙げた。また、何より隣国ロシアの好戦的姿勢を熟知しているリトアニアにとって、米国のプレゼンスとNATO加盟国としての地位こそが独立の命綱であることから同盟関係維持のため最大限の努力をしていると指摘した。

300-2

 台湾を担当したのは防衛省防衛研究所中国研究室長の門間理良氏だ。そのレポートでは、対米関係における台湾最大の資産を東アジアに占める地政学的価値とした。台湾本島は、中国が東シナ海や南シナ海で勢力拡大を狙う際や第一列島線を越えて西太平洋に進出する際にも、共に重要な位置を占めている。また、台湾の民主主義体制は米国の台湾防衛の理由の一つであり、台湾の強力な資産だとした。何より米国が台湾を守る権利を留保し、台湾へ防衛的武器供与の根拠となっている台湾防衛法は、台湾の防衛能力保持に不可欠となっているとの認識を示している。

300-1

 なお、パネル講演会では「対ロシアの最前線国であるリトアニアと後方に位置するポーランドの間には緊密な協力関係があるものの、対中国の最前線国である台湾とアジア安定の要石の役割を担う日本では、高官の相互訪問ができないなど公的な協力関係が結べない」という基本的問題の存在を浮き彫りにした。

 また、笹川平和財団上席研究員の渡部恒雄氏は日本の資産として、「何より米国と脅威認識を共有しており、脅威対象となる中国や北朝鮮をにらむ地政学的に重要な位置にあり、在日米軍に財政面と待遇面で米国に魅力的なホストネーションサポート(接受国支援)を提供している」ことなどを挙げ、「これらは現状では、他の同盟国には容易には代替できない」と強調した。

 一方で渡部氏は、「米国が日本の近隣国との紛争に巻き込まれる懸念、憲法上の制約による軍事力行使への制限、駐留米軍に反対する沖縄県民の反米軍感情、経済および財政上の防衛予算への制約などが、日米同盟の日本側のバランスシート上の負債要素だ」と指摘。それでも「総じて日本は負債よりも多くの資産を持っている」と総括した。

 さらに、トランプ大統領がシリアから米軍の撤退指示を出したことでIS掃討に尽力してきたクルド人を見捨てる形になったことについて、CPFのトーマス・スムラ氏は、ポーランドも歴史的に同じような辛酸をなめてきたことから、同様の懸念を持っていることを明らかにした。

 同盟問題では常に「見捨てられ論」と「(相手国の戦争に)巻き込まれ論」という二つの懸念が出てくるものだ。だが、日米同盟は日本の安全保障の要であることに疑問の余地はなく、同盟関係を維持できなくなれば、国家の存続さえ危ぶまれてくる。その最悪ケースを避けるためにも、日本の協力が米国にとってどの程度価値あるものなのか、日本の弱点が何なのかなど全て洗い出すことで同盟維持のためのバーゲニングパワーを確認することの意義を感じた。