腐敗蔓延の刑務所 フィリピン

 フィリピンで仮釈放制度を利用し、2000人を超える重罪犯が自由の身となっていたことが判明し物議を醸している。刑務所を管理する矯正局の役人が、賄賂を受け取り重罪犯を釈放リストに加えていた可能性も浮上。これに激怒したドゥテルテ大統領が、釈放された重罪犯の出頭を命じる一方、上院議会でも刑務所での腐敗を追及する動きが出ている。
(マニラ・福島純一)

重罪犯2000人が仮釈放
大統領激怒、議会も聴聞会で追及

 1995年に強姦殺人で有罪となり、合計360年もの懲役を言い渡された元町長の収監者が、模範囚に与えられる仮釈放制度を利用し、近く釈放される予定であることが8月下旬に明らかとなった。同収監者は町長時代に大学生のカップルを拉致して、女学生を集団強姦した後に2人を殺害するという凶悪な犯行で有罪となっており、その釈放計画は世論から強い批判を浴び中止となった。

フィリピン警察

カジノが入るリゾート施設で起きた発砲事件現場を警備するフィリピン警察=2017年6月、フィリピンの首都マニラ(EPA時事)

 これを機に仮釈放制度の対象者を調べたところ、制度が導入された2013年以降に2万人以上が仮釈放され、その中には凶悪犯罪を犯した1914人が含まれていることが発覚した。

 これに激怒したドゥテルテ大統領は、釈放された重罪犯に警察に出頭するよう命じ、もし応じなければ逃亡者として扱うとクギを刺し、出頭期限の9月20日までに2000人を超える仮釈放者が出頭。重罪犯の仮釈放を認めたファエルドン矯正局長は更迭され、仮釈放制度は重罪犯への適用を認めないよう改正が行われた。

 これを問題視した上院議会では、重罪犯の妻や矯正局の役人を招聘(しょうへい)して聴聞会が行われ、刑務所で横行する腐敗の究明が行われた。収監中の夫がいる女性は聴聞会で、矯正局の職員から夫の仮釈放のために5万ペソの支払いを持ち掛けられたと証言した。支払い後、3月に釈放が約束されたが、その後、延期が繰り返され、結局、釈放は実現しなかったという。

 また元矯正局長のラゴス氏は、刑務所内では収監者が賄賂を支払うことで女性すら招くことができると証言。女性は隠語で「テラピア」と魚の名前で呼ばれ、相場は3万ペソで、外国人ダンサーが数日間も刑務所内に滞在したこともあったという。

 特に麻薬王と呼ばれる収監者は、頻繁に女性を招くことで有名だったと述べ、裕福な収監者が刑務所内で自由な生活を送っている実態を暴露した。ほかにも、受刑者と警官が結託し、面会に訪れた裕福な受刑者の妻を誘拐して身代金を要求することも横行していたという。

 刑務所内では賄賂次第で携帯電話を使うことも可能で、過去には収監中の犯罪組織のリーダーが刑務所内から部下に指示して麻薬取り引きなどを続け、賄賂によりエアコン付きの豪華な個室で過ごしていたことも発覚している。このように腐敗の横行により、犯罪組織のリーダーなど裕福な収監者にとって刑務所は、外部より安全な活動拠点となっているとの指摘もある。

 矯正局が管理する刑務所での腐敗の横行は今に始まったことではなく、腐敗の浄化は歴代政権の大きな課題となっていた。今回の問題を受け、同刑務所に収監されていた麻薬王を含む10人の重罪犯が、国軍が管理する海兵隊施設で拘留されることが決定している。

 ゲバラ司法長官は、13年に行われた法改正で矯正局の権限が強まったことで、司法省の承認を得ずに収監者の仮釈放が決定されたと主張。権限の強化が今回のような矯正局の腐敗問題を加速させているとして、見直しの必要性を強調した。