私はリーダーをこうやってきた

講演要旨

「我見」「離見」のバランスを

ジャパネットたかた創業者 髙田 明

 ジャパネットたかた創業者の髙田明氏は9月8日、自己表現の技能などを体系的にまとめた「パフォーマンス学」の普及を目指す「国際パフォーマンス学会」(佐藤綾子理事長)の年次大会で、「私はリーダーをこうやってきた」と題して記念講演を行い、「モノを伝えるときは、本当に伝えたいという意思があることを相手に伝えなければ、伝わらない」などと訴えた。以下は講演要旨。

自己主張だけでは伝わらず
相手の心に沿った言葉肝要に

 日本に限らず、世界的にも伝えることが大事になっている。ジャパネットたかたの通信販売も、なかなか売れない時代があった。その時に、伝えることの大事さ、どうしたら伝わるのかという経験を年を重ねながら学んできた。

髙田明氏

 たかた・あきら 1948年、長崎県平戸市生まれ、大阪経済大学経済学部卒業、ジャパネットたかた創業者、現在、J2のサッカーチーム、V・ファーレン長崎・代表取締役社長などを務める。著書に『伝えることから始めよう』『髙田明と読む世阿弥』など多数。

 そうした私の生き方について話しながら、その中で伝えることと関連付けて話したい。私は、高校の時、結構勉強をしていて1日、7、8時間勉強をしていたが、国立の受験で落ちてしまった。

 だが、人間の生き方には、学暦や偏差値は関係ない。今、よく格差があって、自分の所は人口が少ないなどと言う人がいる。しかし、それは学歴と一緒、格差だからと言った瞬間に負けている。そういう気持ちで、どうしてビジネスの世界で、前に進んでいけるのか。

 米国のウォルマートの売り上げは50、60兆円という世界だ。けど、ウォルマートも最初は、米国アーカンソー州の片田舎から出発した。モノの考え方をもっとポジティブにして、たった一回の人生を生きてほしい。

 また、大学時代は、英語を勉強した。どうしても海外に行きたくて、大学4年間はそればかりしていた。一生懸命やった結果、就職して23歳の時、ドイツのデュッセルドルフに駐在。これが私の人生を変えた。

 そして、デュッセルドルフを中心に欧州のほとんどの地域を回った。その時、経験したことが大きな財産になっている。

 私は、テレビショッピングでお肉を紹介したことがある。英国に仕事で行ったらステーキを出してくれて、期待して食べてみたら、そのお肉がゴム草履のようだった。私がテレビショッピングで、日本の和牛を食べて美味(おい)しいと言った時の言葉と表情は、そうした体験の中から本当に出ている。そうしたところをお客さまたちは感じ取ってくれたのではないか。

 また、皆さんは、40、50歳になったら人生ももう終わり、と思ったことはないか。しかし、何歳になっても関係ない。

 私は25歳で会社を辞めて平戸(長崎県)に帰り、実家のカメラ店で働いた。そして、30歳の時、4人兄弟の次男坊ですから一人くらいは平戸を出た方がいいのではないかと佐世保市に支店として出店し、初代・佐世保営業所所長となった。

 そこから現在のジャパネットたかたに繋(つな)がる店舗展開していった経緯があるが、それまで私は佐世保市の観光ホテルなどで、宴会の写真を撮っていた。41歳まで夜、宴会の写真を撮って、朝6時までに持って行き販売することを一生懸命にやっていた。

 今、振り返れば、その頃のことが今の自分にすごくプラスになっている。だから、何歳になっても始めることに遅いことはない。それを私からの最大のメッセージにしたい。

 

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 伝えるというパフォーマンス学に戦略と戦術というのがあるなら、パフォーマンスは戦術の部分に入ると思う。どのようにして伝えていくか、例えば、軽いですよとテレビショッピングでどう表現するかというと、手を動かして見せることで軽さが伝わる。これが宣伝になる。しかし、これだけではモノを買ってもらえない。

 何のために伝える力がいるのかという、戦略の部分が重要になる。これは言い換えるとミッションだ。

 カラオケの話を例にしましょう。ジャパネットたかたがテレビショッピングで販売した、カラオケを購入したお嬢さんからの手紙が今でも忘れられない。

 夫のことが大好きで結婚して東北にお嫁にいった。すると周りは知らない人ばっかりで、彼は仕事で出掛けて行って、お義母さんは無口で喋ってくれない、私の新婚生活はどうなるんだろうと。

 そう思っていた時にテレビショッピングで、歌の上手い人(私だと思う)が、カラオケを2万9800円で販売していた。どうなったかと言うと、「社長ありがとう、実はあの寡黙なお義母さんが実はカラオケが大好きで今は毎日、近所の方が集まってカラオケ大会を開いている。お陰で、最高の新婚生活を送っていますよ」と。

 これは、私がカラオケに千曲以上入っている、選曲も簡単ですと言うだけでは買ってもらえない。でも、カラオケが生み出すもの、健康にいいとか、仲間とコミュニケーションを取れると言ったところにミッションがある。

 だから、ただカラオケを売っただけではない。購入された家族の方の人生を変えた瞬間があったのではないか。何のためにモノを販売しているのかというソフトの部分が大事になる。

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 そして、もう一つ伝える上で大事なことがある。それはパッション、情熱だ。情熱を持たずして、人には絶対に伝わらないというのが私の持論。ぼそぼそ言っても伝わらない、だから私は声が高くてよかったなと思っている。

 恋愛も一緒だろう、貴方(あなた)を愛していると言うだけでは伝わらない。それくらい伝える時には情熱が必要だ。そして高齢化社会になったと言われるのを見て思うのは、人間は体の衰えでは年を取らないということ。情熱を失ったとき、初めて人は年を取る。ミッションとパッションを大事にしていきたい。

 さらに、自分の夢を実現するためには、もう一つアクションが必要になる。どんなにアイデアを持っていても行動を起こさなければ何もできない。失敗してもいい、けど、私は人生70年間生きてきて失敗は一度もない。

 それは失敗の定義の問題だ。私が言っているのは結果論ではなく、プロセス論。人生ですから、山あり谷あり、うまくいかないことがある。けれど一生懸命、目標に向かって努力し一段一段階段を上がるようにしていたら、今の時代の変化に対応し、変化をつくり出す力は全ての人に備わっていくものだと思う。

 だから失敗はない。失敗があるとしたら、一生懸命やらなかったこと、行動を起こさず何もやらなかったことが失敗である。そしてプロセスとして積み重ねたものは必ず自分に返ってくる。

 最後に、伝えることについて、大事なことを世阿弥の言葉を借りて話したい。

 「我見」「離見」という言葉がある。その「我見」と「離見」のバランスを取ることが伝えることの一番大切なことだ。例えば、私はこんなふうに話しているが、業界の常識というのは消費者の常識ではない。業界の常識を消費者に押し付けるという言い方は、少し語弊があるかもしれないが、それをしたらガラパゴスになってしまう。

 日本の電機工学技術は最高だ。けれどガラパゴスであったと思う。例えば4Kテレビ、すごい綺麗(きれい)だが20万円。しかし、グローバル化が進んだ今、アフリカなどで20万のテレビが売れるか。そうした考えが、少し足りなかった。

 「我見」「離見」とは、自分の言い分だけではモノは伝わらないということ。あくまで聞き手の心に沿いながら言葉を出していくということが重要になる。誰に対して向けた言葉なのかを考えて、「我見」「離見」のバランスを取ることが、相手に何かを伝えることの一番根本的な戦略になるのではないか。