台湾有事に備え国際シンポ

 台湾有事に備えた日米台安保協力の強化を訴える国際シンポジウムが、このほど都内のホテルで開催され、「日米共催の人道的海洋安全訓練に台湾の参加を認め、日台交流基本法の制定を望む」との共同声明が採択された。
(池永達夫、写真も)

日米台の安保強化訴える
日台交流基本法の制定を

 「日米台安全保障協力の方向性」をテーマにした同シンポは、日本李登輝友の会会長の渡辺利夫前拓殖大学総長らによって昨年設立された一般社団法人シンクタンク「日米台関係研究所」が主催した。

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「日米台安全保障協力の方向性」をテーマに開催された国際シンポ=ホテルグランドヒル市ヶ谷で

 冒頭、同研究所理事長の渡辺氏が台湾を取り巻く国際情勢を総括し「中国の習近平政権は台湾を核心的利益の筆頭に掲げ、軍事的手段を含むあらゆる必要な手段を用いてでも、台湾併合の意思を鮮明に打ち出している」と述べた。

 また金田秀昭・岡崎研究所理事は、「日台間で機密情報に関する情報交換は当面、無理だとしても、一般情報に関し専門スタッフによる定期協議が必要だ」と主張。安全保障に関わる危機管理システムとして海空連絡メカニズムが日露、日中では存在するが、まずは「日台の間で人道的な地域協力に限ってでも台湾が参画できるようにすべきだ」と提言した。

 一方、台湾シンクタンク副執行長の頼怡忠氏は、「昨年の台湾地方選挙で広東省からソーシャルメディアで発信されたフェイクニュースなど、中国のシャープパワーにどう対処すべきか課題だ」と問題提起。その上で、「中台は独裁と民主主義の対決であり、台湾が敗北すれば、中国は東南アジアや他地域でも力を握ってくる」と懸念を訴えた。

 さらに平成国際大学教授の浅野和生氏は、「日本台湾交流協会と台湾日本関係協会の間で、日台民間租税取り決めや漁業協定など多くの日台合意を積み上げているが、税金は国家権力そのもので民間協定にそぐわず、本末転倒も甚だしい」と法的裏付けのない不安定な中で辛うじて実務関係を維持している日台関係の矛盾を指摘し「実務関係を担保する法的根拠を明示しなければならない」と述べた。

 そして浅野氏は「一つの中国」問題に言及し、日本はあくまでこれを「理解し尊重する」立場であり「同意や承認」ではないとして、「日台交流基本法の制定は可能だ」としたものの、「政府が制定してくれるはずもないので、志を共にする超党派での議員立法で実現したい」と展望を述べた。

 また、ウォレス・グレグソン元米国防次官補は「世界的な潮流として民主主義が衰退し、安全保障でも民主国家が力を失いつつある中、(中国が)グレーゾーンに割り込んで台湾の正統政権を覆すようなことがあってはならない」と持論を展開した。

 中国が常に持ち出す核心的利益とは、主権や安全保障など他国に譲れない国家利益をいい、台湾のほかに南シナ海、チベット、新疆ウイグル自治区などが挙げられるが、台湾は核心中の核心だ。中国が国共内戦で唯一、取り逃がした地域が台湾であり、台湾こそは祖国統一問題だからだ。

 とりわけ昨年3月の全人代で国家主席の任期撤廃を取り付けた習近平国家主席にしてみれば、従来の任期2期10年に縛られることなく、3期以後も就任可能となったことで強大な権力を保持することになった。ただ、それに見合った実績がないばかりか、トランプ米大統領に貿易戦争で押されっ放しで政治的求心力が問われるような政治的状態にある。

 その習近平政権が台湾統一を担保するような事態になれば、政治的求心力は一気に高まる。それは建国の父である毛沢東も、「改革開放」で米国に次ぐ経済大国に押し上げた鄧小平すら成し遂げられなかったからだ。鄧小平は香港返還にはこぎ着けたが、台湾統一は手付かずのままだった。

 その意味でも東シナ海と南シナ海の結節点にあり中国の太平洋への出口をふさぐ台湾は、地政学的に重要であるだけでなく、中国の覇権掌握の成否を左右する要衝の地だ。

 中国が唱える「中華民族の夢」が「日本と台湾の悪夢」にならないためにも、日台の法的基盤を固める必要がある。