24日にタイ総選挙
2011年7月以来となるタイ総選挙(下院、定数500)が24日、行われる。軍政を引き継ごうとする親軍政党と反軍政のタクシン派、その双方に距離を置く民主党が三つ巴(どもえ)戦を展開。しかし3勢力とも単独過半数を取るのは難しい情勢で、早くも総選挙後の連立政権樹立に向けた駆け引きが始まっている。
(池永達夫)
タクシン派、親軍派、民主党が三つ巴戦
連立政権に向け駆け引きも
単独過半数を取る政党が一つもないと予想される総選挙構造は、意図的に作り出されたものだ。
従来の総選挙制度は小選挙区で個人、比例代表で政党を選ぶため2枚の投票用紙が必要だったが、今回は1枚のみ。小選挙区比例代表併用制で小選挙区で個人を選ぶだけだからだ。その小選挙区での総獲得票数が、そのまま所属する政党の獲得票数となる。
全小選挙区の得票数に従い、比例代表の議席が各党に振り分けられるものの、獲得票数の多い大型政党ほど議席数が獲得しにくい制度となっている。このため、少数議席を有する中小政党の乱立が目立った。
タクシン派が複数の政党に分けたのも、そうした選挙制度を考慮した上での対応策だった。
タクシン派政党は、01年以降、総選挙で常に圧勝し続け、第1党を維持してきた。今回もタクシン派陣営が、上下院の過半数となる376議席を獲得した場合、タクシン派政権の誕生になる。選挙法の改正で新首相は、軍が指名権を持つ250人の上院議員を含めた上下院から選出されるためだ。だが、8年ぶりとなる今回の総選挙でタクシン派が、下院過半数を得るのさえ難しい状況だ。
なお2月8日には、タクシン派の一つ、国家維持党がワチラロンコン国王の姉のウボラット王女を、党の首相候補として選挙管理委員会に届け出るという仰天の策に出た。14年5月のクーデターで自派政権を覆されたタクシン派にとり、政権奪還への王手に等しかったが、その日の夜のうちに国王が声明で王女の政治関与を「不適切」と発表し、一気に勢いはしぼんだ。
さらに憲法裁判所は、政党法が禁じる立憲民主制に反するとして、国家維持党に解党命令を出すとともに、10年間に及ぶ同党幹部らの被選挙権をも剥奪した。タクシン派政党が憲法裁により解党命令を受けるのは、07年のタイ愛国党、翌年の市民の力党に次ぐ3回目で全くの裏目に出た。
一方、軍政維持の受け皿となろうとしているのが国民国家の力党だ。国民国家の力党はクーデター以後、5年間続いた暫定軍事政権を率いたプラユット首相を新政権の首班とするために立ち上げた政党で、軍部や財界、官僚といった従来の支配層の意向を強く反映している。
治安を安定させた暫定政権を評価する支持層をバックに、プラユット首相は、長期政権を担保したい意向だが、支持率からすると下院過半数は程遠い。
なお、第3極に位置する民主党のアピシット党首は10日、フェイスブックで「軍事政権が居座り続ければ争いが起きる」と警告、プラユット首相が総選挙後の新政権でも首相を務めることに反対を明言。民主党はこれまでプラユット氏続投への態度を明らかにしてこなかったため、選挙後にプラユット氏支持に回るのではと臆測されてきた。
ただ民主党は、国民国家の力党と協力する可能性を否定したわけではない。民主党と国民国家の力党は、反タクシンでは一致していることから、総選挙で第2党に躍り出ようとする民主党が、新政権づくりで主導権を握るための布石を打ったもようだ。国民国家の力党が犬猿の仲であるタクシン派と連立を組むことはまずなく、可能性が高いのは民主党と組んだ連立政権樹立だ。
対するタクシン派は、解党となった国家維持党の票が流れ込む可能性がある新未来党との連携に照準を合わせる。財界出身のタナトン党首率いる新未来党は、軍事政権とは距離を置いていることもあって若い世代に人気が高い。
総選挙の大勢は投票日の24日深夜にも判明するが、正式な選挙結果は投票日から60日となる5月22日までとなっている。この選挙結果公表日から3日以内に上院議員250人が確定され、6月5日までに首班指名のための特別国会が招集される。このため、連立交渉は6月4日が最終期限となる見込みだ。






