「非核化詐欺」米は乗せられず
決裂シナリオも準備か
今回の米朝首脳会談で北朝鮮は完全非核化に応じるポーズを見せる一方で、実際には核開発の手を緩めない「非核化詐欺」を仕掛けようとしていた疑いが浮上している。
会談2日目の28日午前、トランプ大統領との単独会談に臨んだ金正恩朝鮮労働党委員長は「非核化の準備はできているか」との記者の質問に「その意志がなかったらここまで来ていなかったはずだ」と答えた。ハノイのプレスセンターで取材していたある韓国テレビ局では、外交安保担当の記者が「ぜひ聞いてみたかった金委員長の非核化意志が確認できた」と興奮気味にコメントした。
しかし、会談決裂後、トランプ氏は記者会見で「北朝鮮は制裁緩和を要求したが、われわれが望むものではなかった」と述べ、非核化措置がすでに老朽化している寧辺核施設の廃棄にとどまったことを示唆。会見に同席したポンペオ国務長官も平壌近郊のカンソンにあるとされる巨大なウラン濃縮施設やミサイル基地などの廃棄を求めたが、「北との合意はなされなかった」と明らかにした。
単独会談後に行われた拡大会談では両首脳を含め米国側から4人、北朝鮮側から3人がテーブルを挟んで向かい合ったが、対北強硬派で知られるボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のすぐ前に北朝鮮参加者は誰も座らなかった。
これをめぐり北朝鮮が「完全非核化の要求には応じられない」という意志を暗にほのめかしたものとの見方も出た。
昨年6月の初会談とその後に発覚した核開発の実態で、すでに北朝鮮の「非核化詐欺」を見せつけられていた米国としては、今会談で慎重にならざるを得なかったとみられる。
実務者協議などを通じ北朝鮮に完全非核化の意志が見えないと判断していた米国が「金正恩氏が再び非核化詐欺を仕掛けてくるなら会談を決裂させるというシナリオを事前に準備していた可能性は十分ある」(元韓国政府高官)といえる。
(ハノイ上田勇実)