中国のウイグル人、民族浄化の危機に直面

 中国政府は10月、イスラム教徒の少数民族、ウイグル族の事実上の収容施設に法的根拠を与えた。過激主義の影響を受けた人々に職業訓練や思想教育を行う再教育施設としているが、収容所内での虐待・拷問などの証言が相次ぎ、国際社会からの批判は強まっている。危機感を強めた海外のウイグル人団体は新たな組織を設立し、中国からの独立に向けて動き出した。
(石井孝秀)

弾圧恐れず相次ぐ証言
海外で独立目指す動きも

 日本ウイグル連盟によると、これまで日本や海外のウイグル人は自身や家族への弾圧を恐れて、中国批判を行う運動にはあまり積極的でなかった。しかし、近年は反中国の言動を行っているか否かにかかわらず、収容施設や刑務所に連行されるウイグル人が急増。海外に行っただけで「テロリズムを学びに行った」と当局に逮捕されたケースもあり、残された家族らがSNSなどで声を上げるようになった。

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2015年6月27日、イスラム教の断食月に新疆ウイグル自治区ウルムチで通行人の身元確認をする中国の武装警察(UPI)

 家族が収容施設にいるというアブドラルラフマン・アイシャン氏は、英BBCなどのメディアに強制収容所の「証言者」として最初に登場したウイグル人だ。

 新彊ウイグル自治区カシュガル市出身で、同市では中央アジアとのビジネスに成功した企業家として知られていた。反政府的な活動には一切関わっていなかったが、中国当局と強いつながりを持つウイグル人が同氏の名前を聞いて接近してきたという。

 アイシャン氏は「彼はビジネスマンを装い、私を中国当局に協力させようとしてきた。その意図に気付くことができたが、カシュガルにいるスパイのネットワークを知ってしまった」と語る。

 内部情報を知り過ぎたことによる迫害を恐れてキルギスタンに亡命したが家族は出国することができず、妻と母は収容所に連れて行かれた。4歳の長男と2歳の長女は今も行方不明だ。「今も私の命は狙われている。日本に身の安全を守ってほしい」と話すアイシャン氏の訴えは切実だ。

 アイシャン氏によると、ウイグルへの弾圧は2015年から段階的に強まっていった。当局は同年に25種類、16年に77種類、17年に125種類の禁止事項を発表。内容は長いひげを生やすことや顔を覆うスカーフの着用、外国風の髪型などの禁止で、これらが国家へのテロ意識の表れとして規定された。また、抵抗を警戒した当局により、ウイグル人宅の刃物は番号登録された上に鎖で縛って管理されている状況だという。

 アイシャン氏は「私の母はあまり宗教に興味のない人だった。30年間ずっと教育者として務めてきたが、それでも収容所に入れられた。中国当局は宗教テロの予防を名目に掲げているが、実際はテロと無理やり結び付けただけで根拠は全くない」と語った。

 中国当局による弾圧が深刻化する中、9月28日から29日にかけて、東トルキスタン独立運動大会がフランス・パリで開かれ、世界各地で活動するウイグル人組織15団体から250人の代表が会議に参加した。協議の結果、新たに「東トルキスタン国民会議」の創設が決定され、トルコ在住の東トルキスタン教育連帯協会会長、セイット・トムチュルク氏を議長に選出した。

 同組織では、1933年と44年に存在していたウイグル人国家「東トルキスタン共和国」が、現在中国によって侵略され植民地状態にあると強調。独立を中国から勝ち取ることを目標にしながら、習近平政権以来、ウイグル人が民族浄化の危機に直面している実態を国際社会に認識してもらうことを求めている。10月に日本・東京で発足した「自由インド太平洋連盟」(ラビア・カーディル会長)との協力も視野に入れているという。

 トムチュルク議長は12月に来日し、7日には憲政記念館(東京・永田町)で講演を行った。トムチュルク議長は「一つの民族が残虐に消される運命にある。中国は収容所を職業訓練所と言い訳しているが、強制的に入れられた上に死人も出るような職業訓練所があるわけがない。私たちは命、財産、祖国、家族を救うことができず、失うものが何も残されていない状況だ」と訴えた。さらに「この問題はある日、日本でも起こり得ることだ。中国の拡張政策や対外侵略は既に日本にも向いている」と警鐘を鳴らした。