比南部で戒厳令が再延長

 フィリピン国内で物議を醸している戒厳令が、ドゥテルテ大統領の強い後押しで再び延長された。南部ミンダナオ島で活動するイスラム過激派や共産ゲリラなどの掃討を目的に、ドゥテルテ大統領が強く求めていたもので、12日に上下両院が賛成多数で承認した。しかし左派系議員や人権団体などからは、人権侵害が悪化するとの批判もあり反対意見も根強い。
(マニラ・福島純一)

難航する過激派封じ込め
中間選挙に利用との懸念も

 戒厳令が延長されたのは、2017年に発令されてからこれで3回目。期限は19年末までとなる。当初はミンダナオ島マラウィ市を占拠したイスラム過激派のマウテ・グループの鎮圧を目的に、ドゥテルテ氏が60日間という条件付きで発令を決定した。同年10月にはマラウィ市の奪還に成功したが、その後もイスラム過激派の残党によるテロ活動が続いたことから、治安維持を担当する国軍や警察からの強い要請もあり、延長してきた経緯がある。

ドゥテルテ大統領

2017年10月17日、フィリピン南部ミンダナオ島マラウィ市で演説するドゥテルテ大統領(AFP時事)

 戒厳令が発令された地域では、裁判所の令状なしで軍や警察による捜索や逮捕が可能となり、緊急を要するテロ対策などで迅速な対応が可能だ。その一方で、戒厳令を利用して政府に批判的な団体や組織に対する人権侵害が加速するとの懸念もあり、左派系団体やカトリック教会から反発を招いている。

 特に来年5月には中間選挙が控えており、ドゥテルテ氏が率いる与党陣営が、選挙を有利に運ぶため戒厳令を利用するのではないかという疑念が浮上している。また、何かをきっかけにミンダナオ島に限定した戒厳令を、全国に拡大するという不安も根強い。

 ドゥテルテ氏は11月22日、ビコール地方やサマール州、東ネグロス州、西ネグロス州に治安対策として、国軍兵士と警官を増派する大統領令を出している。増派される地域では、最近になり警察署への襲撃や地元政治家の殺害など共産ゲリラの新人民軍(NPA)が関連する事件が相次いでいた。しかし増派をめぐっては、わざわざ大統領令を出したことに関して、事実上の戒厳令との懸念も広がっている。フィリピン共産党の指導者シソン氏は、来年の中間選挙に向けて戒厳令を全国に布告する計画の一部と指摘し、ドゥテルテ氏を強く批判した。

 ミンダナオ島では戒厳令にもかかわらず爆弾テロが相次ぐなど、イスラム過激派の封じ込めは依然として難航している。

 マギンダナオ州タクロン市で11月19日、警察の検問を突破しようとしたイスラム過激派メンバー2人が警官によって射殺される事件が起きた。警察によると、イスラム過激派のバンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)のメンバーが車両でタクロン市に爆弾を運んでいるとの情報を受け、警戒を強化していたところ、不審な車両と銃撃戦になったという。車両からはイスラム国の黒い旗と一緒に、複数の銃器と起爆可能な爆弾が積載されていた。

 一方、マニラ首都圏バレンズエラ市では16日、イスラム過激派のアブサヤフやマウテ・グループ、NPAなどに武器を供給していた密売人の男女が逮捕された。国家警察によると、顧客を装った警官が容疑者に取引を持ち掛けておとり捜査を行ったところ、容疑者の車から2丁のアサルトライフルの他1万2000発以上もの弾丸が押収された。弾丸の箱には国軍の所有を示す刻印があったことから、国軍関係者による横流し疑惑が浮上している。国軍が調査を行っているが、武器の横流しが事実なら、イスラム過激派の掃討を目的とした戒厳令への信頼に水を差すのは必至の情勢だ。