「産む性」の正しい教育を

人口減少社会を超えて 第3部・識者インタビュー (2)

元厚生省児童家庭局企画課長 大泉博子さん(下)

大泉さんは「人口省」の創設を提言しているが。

大泉博子さん

 人口政策を新たな社会政策として確立させ、ピンポイントの対策も含め、大きな政策を実現させるのは「省」でないとできない。

 安倍晋三首相は、2050年まで1億人を保ちたい、そのために希望出生率1・8を目指したいと明言している。しかしこれは希望的に出している数字で、掛け声だけで終わってしまう可能性が高い。実現させるには、学問的、科学的に、こういう出生率であれば可能だという数字を出し、それを果たすための確かな手を打っていかなければならない。そういう専門行政を行える「人口省」の創設が急務だ。

どんな人口政策があるか。

 一つは、男女とも就学年を現在の6歳から5歳に1年早めること。人口研の調査によると、1975年時、いちばん多く子供を産んだのは25歳だが、直近の数字では30歳。晩婚化、晩産化が進んだ結果、5歳の違いが出ている。

 日本人は、基本的に学業が終了してからでないと結婚をしない。就学を1年早めれば多くは21歳で大学を出、結婚も1年早まるということになる。

1年の差の効果は。

 女性は35歳を過ぎると、妊娠率がすごく落ちる。従って30歳で第1子、次の子を33、34歳で産むとして、さて第3子を産もうとしても簡単ではない。「3人は産みたい」と思ったら、少なくとも28歳の後半から産んでいかないと、3人の子を持つことはなかなか難しい。

そういった知識は、あまり知られていない。

 ぜひ「産む性」の教育をすべきだと思う。最近、女性に関して、セクハラ、それに対するミーツー運動などが盛んに取り上げられるが、「産む性に対する尊重」ということに関してはほとんど言及されないし、ましてそれについての教育もない。価値観に及ぶ教育は古めかしいと思われるからかもしれないが、それを言えば、男女共同社会という考え方だって価値観を中心としたものだ。

 「産む性」の教育が施され正しい知識を得るのは、その人の確かな人生設計に必要なことだ。「産みなさい」と言っているわけではなく、もし、子供を持つという人生を考えているなら、25歳から30歳ぐらいまでの人生計画もちゃんと立てていた方がいいですよ、ということ。正しい知識を10代で与えられ、身に付けるのは大切なことだ。民間の調査だが、50歳まで子供を産めると思っている日本の女性は、その80%に上るという。驚くばかりだ。

出生の間合いを計る「スペーシング対策」はどうか。

 それを現実にやったのはスウェーデンだが、2人目の子を年子として、あるいは2年以内に産んだ場合には、保険料や保育料、税金などで優遇措置を与えるというもので、効き目があった。

 日本では、次の子は2歳・3歳下が多く、皆さん同じような考えを持っていて、続けて出産するのは、なぜかためらいがあるのかもしれないが、結婚しているのだから、次子を産もう、産みたいと願う人は決して少なくない。そういう人たちに、「もうちょっと仕事が暇になってから産もう」というのではなく、「すぐ産んじゃえ」という出産を促すインセンティブを与える効果が「スペーシング対策」にはある。こういった政策は人口省がないとできない。

若いカップルへの支援はどうか。

 金銭援助は切りがないが、婚姻するとき若者への公営住宅の入所優先などの現物給付ならいいし、効果がある。また結婚して1、2年の間だけ、つまり時限的に金銭給付ということはあり得る。もちろん所得の足りない分を補うことができる。

(聞き手=編集委員・片上晴彦)