売電で外貨獲得、「バッテリー国家」ラオスのリスク

 ラオス南部のアッタプー県で死者39人など多大な犠牲者を出した水力発電用ダム決壊事故から40日が経過した。この事故で浮き彫りになっているのは、建設技術不備による人災という安全リスクとともに、「債務の罠(わな)」回避のための財務管理の甘さだ。
(池永達夫)

決壊で見えた「債務の罠」
返済滞れば資産・資源は中国に

 7月下旬のダム決壊事故では、六つの村が大きな被害を受け、39人の死亡が確認されたほか、97人が行方不明となっている。また6000人余りの住民が住む家を失ってテント生活などを余儀なくされ、被災者は1万3100人に上った。

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7月24日、ラオス南東部アッタプー県で、ダム決壊で水没した家の屋根に避難する人々 ABCラオス提供(EPA時事)

 これらの村は、ダムから40キロも離れているにもかかわらず壊滅状態だった。村が受けた被害は、浸水といった次元ではなく、大量の水によってほとんどの家が破壊された。今回の災害は、人間が造ったダムが決壊したことによって、自然ではあり得ない大量の水が短時間で流出して村々を襲い、津波のような大きな被害をもたらした。海のないラオスで発生した“陸の津波”だ。「これは大雨による天災ではなく、人災だ」との指摘が説得力を持つ。

 決壊したダムは韓国のSK建設と韓国西部発電、タイのラチャブリ電力、ラオスの国営企業による合弁企業によって建設されたものだった。

 決壊前日に判明していたひび割れなどから、地元の人々に避難を呼び掛けていたとされるが、村々の住民にしっかり周知させていたわけではなかった。ラオス政府は専門家委員会を設立して、事故原因究明に入っている。

 なお、山岳国家ラオスではダム建設は基幹産業となっている。売電による貴重な外貨獲得をもたらすからだ。ラオスはメコン川支流を中心に水力発電用ダムが40カ所あり、隣国タイや中国、ベトナムなど周辺国に送電網を通じて売電するバッテリー国家でもある。

 さらに現在、50カ所でダムを建設中で、2030年までに合計150カ所でダムの建設計画がある。しかし、今回の事故を受け、政府は安全対策が整うまで、すべてのダム建設を一時中止すると発表した。

 今回の事故では、安全面でのリスクが浮き彫りになったが、ラオスにとっての懸念はそれだけではない。

 ほとんどのダム建設において、資金調達を中国からの借金に頼っているからだ。その担保にはダムの経営権などが設定されており、ラオス側の返済が滞った場合、電力売却の利益はそっくり中国側に持って行かれる。結局、ラオスはリスクだけ背負い、リターンは中国という構造だ。

 ラオスでは高速鉄道工事など、一帯一路のプロジェクトも進行中だ。2016年12月末に建設が始まり、完成予定は21年12月2日の建国46周年記念日となっている。

 首都ビエンチャンから中国国境沿いのルアンナムター県ボーテンを結ぶ高速鉄道の建設総額は、ラオスの国家予算の2倍に当たる約60億ドル。このうち、42億ドルを中国側が負担し、ラオス側の負担は残りの18億ドル。ラオスにとっては大きな負担だが、そのほとんどを中国の銀行からの借金に頼っており、いずれ返済しないといけない資金だ。

 中国への返済が滞れば、沿線の鉱山や土地の権利などが担保として中国側に渡ってしまう懸念がある。ラオスには金や鉄鉱石、石炭、天然ガス、スズ、そしてボーキサイトなど豊富な地下資源が眠っている。返済がトラブルに巻き込まれれば、ラオスにとって収入源となるべきこれら資源や資産が、次々と中国側に渡るという「債務の罠」にはまることになりかねないのだ。

 ダムや鉄道建設にしろ、未来に待ち受けているのは「債務の罠」というあり地獄である可能性が高い。これを回避するための財政リスク管理こそが望まれる。