ドゥテルテ比大統領、「ニンジャ警官」一掃に懸賞金
フィリピンのドゥテルテ大統領が、また驚きの提案を行った。再び警官による犯罪行為が深刻化していることを受け、腐敗警官の一掃に多額の懸賞金を出すと宣言したのだ。ドゥテルテ氏は警官の汚職対策として、給与の大幅な増額を推進してきたが、あまり効果がなかった実態も浮き彫りとなった。
(マニラ・福島純一)
給与増額も汚職やまず
ドゥテルテ氏は17日に、警察組織内で不正を働く「ニンジャ警官」の一掃を目指す方針を打ち出した。ニンジャ警官とは麻薬組織や誘拐組織と癒着して犯罪に加担し、私腹を肥やしている警官の総称となっている。ドゥテルテ氏は「すべての警官が腐敗しているわけではないが、組織内の悪い卵が薬物戦争を停滞させている」と述べ、予想外に長引いている麻薬撲滅運動の原因が、取り締まりの主体となっている警察の腐敗にあると主張した。
政権の優先課題である麻薬戦争をめぐっては、就任当初に「6カ月で終わらせる」と豪語していたが、あまりの薬物汚染に対応し切れず延長を繰り返してきた。7月の施政方針演説では「麻薬戦争の終わりはまだ遠い」と、任期内の麻薬撲滅を諦めたとも取れる発言をした。警察組織への失望が今回の提案に繋(つな)がったと考えられる。
ドゥテルテ氏は、「ニンジャ警官の遺体を私のところに持って来たら500万ペソ(約1000万円)を支払う」と訴え、懸賞金が政府キャンペーンとして真剣に検討されると強調。さらに、「もしニンジャ警官を生け捕りにした場合は1万ペソ(約2万円)」と付け加え、腐敗警官たちに48時間以内の投降を呼び掛けた。
しかし、ニンジャ警官を殺害した場合に罪に問われるのか、さらにどのようにニンジャ警官の汚職を証明するのかに関しては一切説明しておらず、麻薬容疑者に続き腐敗警官に対しても超法規的殺人を推奨するような発言として、人権団体からの批判をさらに生みそうだ。
このような強硬な提案に繋がったのは、このところマニラ首都圏を中心に繰り返された目に余る警官たちの犯罪行為だ。
首都圏タギッグ市で7月31日、市民を誘拐し身代金を要求した警官3人が逮捕され、1人が射殺される事件があった。警察の調べによると4人は市内の民家に捜査を装って押し入り、5万ペソ相当の金品を略奪。その数時間後には別の民家に押し入って、カップルの男女を拉致し20万ペソの身代金を要求した。通報を受けた警察がおとり捜査を行い、容疑者の警官3人を逮捕し、抵抗した警官1人を射殺した。
また、首都圏マカティ市では7月5日に、中国人誘拐事件に関与した警官を含む4人の容疑者が逮捕された。逮捕されたのはマカティ市警察の交通課に勤務する警官と共犯者の3人。容疑者たちは、市内で中国人2人が乗った車を停車させて拳銃で脅して連れ去り、家族に身代金100万ペソを要求していた。
さらに、マニラ首都圏モンテンルパ市でも7月13日、市民に対し強盗と身代金目的の誘拐を働いた警官4人が逮捕されている。逮捕されたのは同市警察の麻薬取締課に所属する警官で、麻薬捜査を装って民家に押し入り、現金や家電、パソコン、宝飾品などを強奪。さらに女性とその7歳の息子を連れ去って、同居人の男性に身代金40万ペソを要求していた。
アルバヤルテ国家警察長官は、「給与が倍増しているにもかかわらず依然として恐喝行為が横行している」と失望を表明している。ドゥテルテ氏は警察や国軍の腐敗防止策として給与の増額を実施してきたが、必ずしも汚職の抑止になっていない実態が浮き彫りとなった。給与の増額で新人警官でも月給は約3万ペソと、一般の最低賃金がマニラ首都圏でも1日500ペソに満たない状況であることを考えると、かなりの厚遇となっている。
アルバヤルテ長官は、警官の汚職浄化の一環として、今後は警官募集の際に応募者の背景調査を厳格に行う方針を示した。
とはいえ警察組織の汚職問題は、歴代政権が頭を痛めている長年の問題となっており、麻薬戦争と同じように「終わりはまだ遠い」と言えそうだ。