比ミンダナオ島のイスラム居住区に自治権

法制化急ぐドゥテルテ氏

 フィリピン南部ミンダナオ島のイスラム教徒居住区に高度な自治権を付与する、バンサモロ基本法(BBL)案の成立に向けた動きが大詰めを迎えている。南部で長年にわたって続けられてきたイスラム勢力との紛争終結に向け、ドゥテルテ大統領は議会上下両院にBBLの早急な可決を要請しているが、イスラム勢力からはBBLの法案修正に対し不満も噴出している。
(マニラ・福島純一)

過激派武装解除の試金石

 ドゥテルテ大統領は12日、独立記念日の式典で行った演説の中で、「BBLが可決されなければミンダナオ島で再び暴動や革命のような騒ぎが起きる可能性がある」と警告し、議会にBBLの早期成立を要請した。

ドゥテルテ氏

駐屯地を視察するフィリピンのドゥテルテ大統領(中央左) 2017年7月7日、南部ミンダナオ島イリガン市(AFP時事)

 BBLは上院と下院で別々の法案が審議され先月に可決されており、今後は両院の可決案の擦り合わせが行われる見通しとなっている。しかし法案の内容をめぐっては、バンサモロ自治区で徴収された国税の配分が、バンサモロ政府75%、中央政府25%だったものが、最終的に均等配分となるなど大幅な修正が加えられており、イスラム勢力のモロ・イスラム解放戦線(MILF)の幹部からは不満の声も出ている。

 大統領府の報道官によると、両院は施政方針演説が行われる7月23日までに修正案を成立させ、同日にドゥテルテ氏が署名を行いBBLを発効させる見通しだという。その後90日から120日までに各地域で住民投票が行われ、バンサモロ自治区への編入の可否が決定される。

 しかし2008年にはアロヨ政権とMILFが和平合意に向け、「先祖伝来の領域に関する合意覚書」に署名直前まで漕(こ)ぎ付けたが、その内容を最高裁判所が違憲と判断して差し止めとなり、これに反発するMILF勢力との武力衝突が拡大した経緯がある。

 これを踏まえ両院は細心の注意を払って法案を準備してきたが、BBLの高度な自治権を付与する内容が再び憲法に抵触する可能性も残されている。

 この問題をドゥテルテ大統領は連邦制への移行を同時並行で進め解決を図る意向を示していたが、現状では連邦制に関する国民の理解を得るに至っておらず、またそのための改憲にも莫大な時間がかかると考えられており、任期内の実現を危ぶむ意見も出ている。

 MILFのジャファール副議長は、「BBLの成立なしに武装解除はしない」と指摘。さらに税収配分の減額など大幅な改変にも不満を表明し、マウテグループやバンサモロイスラム自由戦士(BIFF)など、反政府活動を続けているイスラム過激派を納得させることはできないと述べ、武力衝突の再発を警告した。

 ミンダナオ島で活動するイスラム過激派をめぐっては、戒厳令の布告と国軍による掃討作戦で弱体化が進んでいるが壊滅には至っていない。BBLの成立に失敗しイスラム最大勢力のMILFが武装闘争を再開すれば、ほかのイスラム過激派もこれに同調し、再び長い混乱に見舞われることも考えられる。

 BIFFやアブサヤフなど南部で活動するイスラム過激派の多くは、政府との和平路線に反対する元MILFの構成員で組織されていることで知られている。BBLに失望したMILF構成員が新たなイスラム過激派を組織したり、既存の過激派組織に合流する可能性もあり、ミンダナオの紛争解決には、MILFとの和平実現が欠かせないものとなっている。