台湾が中国の経済攻勢に対抗

台湾特集

人材引留めと映像産業育成

 米連邦議会上下院でこのほど、米国と台湾の政府高官の相互訪問を解禁する「台湾旅行法」を全会一致で可決。トランプ大統領が署名し、正式に発効した。これで蔡英文総統のホワイトハウス訪問も可能になった。

米国、台湾旅行法でバックアップ
台湾の4大方針と8強化策

 中国は「台湾は中国の一部」という「一つの中国」に触れるとして激怒している。だが、「一つの中国」問題に対する米国の基本的立場は、(そう中国が主張していることを)「認識する」というもので、認めているわけではない。

蔡英文総統

台官の相互訪問を促進する台湾旅行法がトランプ大統領の署名を受けて3月16日に成立したが、3月21日、訪台した在米台湾人の会合で笑顔を見せて感謝を伝える蔡英文総統(TaiwanNewsから)

 トランプ氏が大統領選を制した後、蔡英文総統に電話した経緯があるが、今回はそれに続く台湾へのエールとなった。無論、米国とすれば東アジアで強権台頭してきた中国をけん制するカードとしての意味も濃厚だ。

 米議会で次に待たれるのは「台湾安全法」の制定だ。同法案は「米国政府が台湾の国際的地位を促進し、地域の平和と安定を確保すること」を目的としている。この法案は昨年7月、上院外交委員会で東アジア小委員会委員長を務めるコーリー・ガードナー上院議員(共和党)とトム・コットン上院議員(共和党)が提出した。

 台湾の4大方針と8強化策

 なお「中台統一」を主要な政治目標に掲げる中国は、台湾内部の分断工作にも動いている。

 とりわけ中国が狙うのは、台湾の若者であり起業家たちだ。台湾の青年に対し、就職斡旋や税金の一部免除、さらにベンチャーに意欲を持つ台湾人に対する優遇措置など、台湾の若者や起業家たちの取り込みに余念がない。

 こうした中国の微笑外交には注意が必要だ。実利で若者や起業家を引き付けることで内部が分断され、台湾で北京の政治的意図が反映されやすくなる懸念があるからだ。無論、台湾から技術、資本、人材を吸収し、それにより中国の経済的苦境を乗り切ろうという意図も透けて見える。

 これに対し台湾政府は対抗措置を取り、4大方針と8項目の強化策を打ち出した。

 4大方針は、①就学・就職環境を改善し、人材の引き留めと人材の誘致を強化する②世界のサプライチェーンにおける台湾の優位性を維持する③資本市場を深化させる④文化・映像産業を強化する――の4項目だ。

 その具体策として台湾各地に65の卓越研究センターを設置し、質の高い研究資源を提供し、博士研究員の採用枠を拡大する。また、海外からの優秀な学者や研究者の誘致を強化する。国立大学の教員の給与に含まれる「学術研究加給(研究費)」を10%引き上げる。

 さらに、10億台湾元(約36億円)を拠出するエンジェル・ファンド投資計画により、スタートアップに創業資金を提供する。台湾の政府系投資ファンドである行政院国家発展基金のベンチャー・キャピタル事業に対する出資比率の上限30%、10億台湾元の規制を緩和する。

 そして映像産業発展を促すため、行政院国家発展基金から60億台湾元(約217億円)を拠出し、文化産業やコンテンツ産業に投資する。

 なぜ閉じる、WHO台湾参加の門

 台湾は2009年より8年連続でオブザーバーとして世界保健機関(WHO)総会に参加してきた。ところが昨年に続き、今年もオブザーバー参加が難しい状況にある。

 蔡英文政権が、中国と台湾が「一つの中国」に属するという原則を受け入れていないため、中国が圧力を加えているからだ。

 世界がグローバル化して、年間、200万人近い日本人観光客が台湾を訪れ、450万人以上の台湾人が中国?を訪問する現代、台湾だけがWHOの枠から抜け落ちているというのは、どうみても不可解そのものだ。

 特に台湾は、毎年6000万人を超える旅客が出入国している。もしも台湾がWHOから欠けたら、MERS(中東呼吸器症候群)やエボラ出血熱、ジカ熱などの感染症が発生した際、初期の措置を誤まれば急拡大する恐れがある。また、台湾は渡り鳥が必ず通る所でもあり、鳥インフルエンザの感染拡大リスクも軽視できない。

 中国の政治的思惑で台湾をWHOから遠のけ、世界の防疫ネットワークに穴を開けることは、台湾だけでなく人類の健康を脅かすリスクを抱えていることを意味する。巨大な堤防もアリの一穴から崩れていくリスクを考慮すると、情報網整備と初期手当てが生死を左右するリスク管理の常識論からして、考えられない事柄だ。

 ましてやWHO憲章には、「すべての人びとが最高レベルの健康を追求すること」を目的と規定した上で、「(この目的は)人種や宗教、政治、社会状況の違いにより区別されない」としている。台湾のWHO参加問題は政治問題ではなく、基本的人権にかかわる人道上の問題だ。

(池永達夫)