中国の覇権抑える議論なし、一帯一路日本研究センター設立シンポ

 一帯一路日本研究センター設立シンポが18日、都内の日本プレスセンターで開催された。5年前に習近平国家主席が打ち出した一帯一路は、一見すると弾みがついてきているように見えるものの、舞台裏は補助金漬けだったりする。とりわけバスに乗り遅れるな式の関与論ばかりが強調される中、中国の世界覇権掌握の手段という懸念を払拭(ふっしょく)するための安全保障政策が欠落した議論では均衡を欠くと言わざるをえない。
(池永達夫)

日本をミスリードの不安も

 着任したばかりの在日本中国大使館公使参事官(政治部所属)の薛剣氏は、「インフラ建設は一帯一路の主要プロジェクトだが、早いスピードで建設されている」とし、①アフリカのケニアのモンバサからナイロビまでの鉄道の運行開始②東欧のハンガリーからセルビアまでの鉄道建設の開始③中国からラオスまでと、タイの国内鉄道の工事開始―などを説明した。その上で、港湾運営権を取得したギリシャのピレウス港に関し、世界的なトランジットハブに建設する意向を明らかにするなど、一帯一路は構想から建設段階へ移ったことを強調した。

薛剣氏

薛剣氏

 またジェトロ・アジア経済研究所上席主任調査研究員の大西康雄氏は、「いくら規制緩和をやっても取り残される中国西部内陸部への手当てとしての一帯一路の側面がある」と述べ、「西部大開発バージョン2と、世界に中国式の生産力を輸出するという二つのことを同時並行してやるのが中国らしいところ」との認識を示した。

 さらに、シグマキャピタルチーフエコノミストの田代秀敏氏は、デジタル一帯一路に言及した。

大西康雄氏

大西康雄氏

 田代氏は「中国ではネギ1本でもモバイル決済され、現金払いを拒絶する店が少なくなく、乞食(こじき)でさえQRコードをかざして物乞いをするようになっている。その中核を担うのは、国内で5億人近い利用者を擁するアリババだ」と述べ、「人口も多く広大な国土を持つ中国で、既存の銀行システムを使わず独自のモバイル決済サービス・アリペイを構築したアリババの技術は魅力的だ」と評価した。

 今後、人口が急速に伸びていく発展途上国にとって、通信や決済インフラ整備が必須となるが、その設備投資には莫大な資金と時間、ノウハウが必要となるため、デジタル一帯一路により、技術と資金力を持つ中国の影響力が増す趨勢(すうせい)にあるという。

李瑞雪氏

李瑞雪氏

 なお、法政大学教授の李瑞雪氏は「(ユーラシア大陸の東西を結ぶ)鉄道ルートは61と乱立気味で、そのキャパに見合う実需がない。最も深刻な問題は、これらの鉄道が補助金に依存していることだ」との問題点をあぶり出した。おおよそ、ユーラシア大陸の東西を結ぶ鉄道コストの3分の1から半分程度が、中国政府の補助金によって補填されているとされる。

 中国と欧州を結ぶ国際定期貨物列車・中欧班列は2017年末現在、欧州と中央アジアの14カ国38都市とつながっている。さすがに中国鉄路総公司も、これを座視するわけにはいかず、経路の集約化に力を入れ始めている。

進藤榮一氏

進藤榮一氏

 一帯一路日本研究センターの設立報告に立ったアジア連合大学院機構理事長の進藤榮一氏は、「中国には一帯一路のシンクタンクが、中国社会科学院のような国家付属の研究センターだけでなく、20程度できており、日本でも同センターを立ち上げた」とし、「パックス・アメリカーナの終焉(しゅうえん)など、250年続いた欧米世界が終わり始め、新しいアジア台頭への構造変化の機会を捉えることが日本再生にとって必要不可欠だ」とした。

 ただここでは、安全保障問題も中国で欠落する自由・人権問題も、真摯(しんし)に議論されることはなかった。

 韜光養晦(とうこうようかい)路線をかなぐり捨て強権台頭する中国にとって、「一帯一路が世界の覇権を握る手段」というのは、日本にとっても世界にとっても、差し当たって大きな懸念材料だ。

 その懸念を解消するための安全保障政策や外交路線を議論することなく、見境なく中国にレッドカーペットを敷くような同センターの姿勢に国をミスリードする不安を感じる。