不安定な習・共産党体制

 昨年10月に開催された中国共産党大会で、習近平総書記率いる中国共産党中央は、「新時代」をキーワードとして掲げた。従来の世界秩序に満足しないニュアンスが込められた「新時代」に中国は何を求め、どう行動するのか。笹川平和財団「中国の定点観測」プロジェクトは3月6日、「中国の対外戦略―『新時代』の意味するもの」公開フォーラムを開催した。
(池永達夫)

中国「新時代」フォーラム

脆弱性ゆえの強権統治 グレイザー氏
一帯一路へ懐疑広がる 高原氏
強国宣言に警戒が必要 松川氏

 司会役の笹川平和財団の小原凡司上席研究員は、「中国は共産党による管理強化に動いている。党を高く持ち上げる一方、軍の権威を下げたり、メディアやネットの管理にも動いている」とした上で、今世紀半ばまでに米国と伍(ご)する軍事力の強化を打ち出した中国の展望を尋ねた。

グレイザー氏

グレイザー氏

 米国のシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)で「チャイナ・パワー・プロジェクト」のディレクターを務めるボニー・グレイザー氏は、「昨年は7%、国防費は一貫して伸び続けている。南シナ海でも南沙や西沙など三つの島で滑走路が造られ、格納庫も整備された。AI(人工知能)開発では、兵器システムに汎用化されようとしている」と現状を説明した上で「習近平政権は軍の地固めに成功し、ゲーツ国防長官が訪中した時のようなこと(次世代ステルス戦闘機の飛行実験を行い胡錦濤総書記に泥を塗った)はなくなる」との見解を述べた。

 さらにグレイザー氏は「共産党大会では『建国した毛沢東、豊かにした●(=登におおざと)小平、強国にする習近平』との政治報告がなされたが、『新時代』で強権が強みから弱みにならないか」との疑問を提示、「強権を手にし自信と能力を示そうとしているのは、国内の脆弱(ぜいじゃく)性や不安定性など脅威が拡大しているからかもしれない」と述べ、強権統治のタクトを振る習近平氏の背後にある経済の脆弱性や政権の不安定性を示唆した。

高原氏

高原氏

 参議院議員の松川るい氏は「昨年の党大会では強国宣言が出された。2035年までに世界で通用する一流の軍隊にするという。これには全面的な警戒が必要だ」と述べた。

 一帯一路構想に関して東京大学の高原明生教授は、「欧州と東アジアをつなぐ一帯一路は、世界には魅力的に映ったが、時間がたつにつれ期待したほどには資金がいっていない。さらに中国の地政学的戦略プロジェクトであることに気づき始め、世界にも懐疑的見方が広がりつつある」と述べ、「高速鉄道は国内では借金ばかりが多く儲(もう)かってはいない。そうした余剰生産能力のはけ口に使おうとしている側面もある」とした。

 さらに、高原教授は「中国が言う国有企業改革は寡占体制の解体ではない。むしろ、どうすれば国有企業がさらに強くなるのか」が柱になっているものだとの認識を示した。また、「党大会で民営企業に関し『発展を支持する』といった抽象的表現があった」と指摘した上で「近代化で透明性を高め市場化を促進すれば党の役割を減らさざるを得ないが、指揮命令を意味する『領導』という言葉を使い、党のグリップを強めようとしている」と述べ、相反するはずの「近代化と領導」の2兎を追う共産党の姿勢を「最大の矛盾」と断じた。

松川氏

松川氏

 中国政府は昨年来、外資を含めた各企業に対し「中国共産党組織」の設置を求め、党による企業経営介入強化に動いている。

 ただ、これでは「質の経済」を目指しイノベーション企業の育成を掲げる習路線も、政治力強化で自ら「つまずきの石」になってしまう党害が鮮明になる危惧がある。自由で豊かな発想力をベースにしたイノベーション力がそぎ落とされ、時に荒波を中の航海を強いられる企業経営では臨機応変に舵を切れることが生き残りの必須条件にもかかわらず、「政治的な磁場」で舵が固定されるようなことになれば、荒波に飲み込まれてしまうこともあり得るからだ。