汚染深刻な比のリゾート地、大統領が「災害状態」宣言
フィリピンが誇るアジア有数のリゾート地が閉鎖の危機に直面している。杜撰(ずさん)なインフラ整備と観光客の増加で汚染が加速度的に進んでいることを懸念したドゥテルテ大統領が災害状態を宣言。改善が進まなければ長期間の閉鎖も辞さない構えを示しているのだ。閉鎖勧告が他のリゾート地に波及する可能性も浮上しており、観光業界への影響も懸念されている。
(マニラ・福島純一)
下水施設なく海に垂れ流し
先月ドゥテルテ大統領は、白い砂浜で世界的に有名なリゾート地のボラカイ島を「汚水溜め」と酷評し、6カ月の期限内に汚染状況が改善されなければ同島を閉鎖すると宣言した。現地を訪れた際に砂浜がゴミだらけで、海水はリゾート施設が垂れ流す下水で汚染されており、このまま対策を講じなければ、「外国人観光客が帰りの飛行機で何度もトイレに行くはめになる」と、いずれ大きな問題を招くと指摘し、早急な対策の必要性を強調した。
ビサヤ地方アクラン州にある全長7キロほどのボラカイ島は、美しい白い砂浜で世界的に有名になったリゾート地。かつては電気も水道もないような秘境だったが、1990年代にメディアで取り上げられると、注目を集め世界から観光客が訪れるようになる一方、環境問題も深刻化していった。
環境天然資源省が現地調査を行ったところ、下水施設を使用せずに汚水を海に投棄していた少なくとも300の施設を発見した。これらの違法施設は全体の4割にも達しており、環境汚染の背景には規制を徹底させるべき自治体の怠慢と腐敗があることも浮き彫りとなった。同省は2カ月以内に改善が行われなければ、施設の閉鎖も辞さない構えだ。
このような危機的な実態が明らかになる中ドゥテルテ氏は6日、ボラカイ島の災害状態を宣言する方針を打ち出した。これは島の閉鎖に備えるもので、経済的な影響を受ける住人への支援などに、政府資金を迅速に支給するための措置だと説明している。さらにドゥテルテ氏は、汚染を野放しにしていた自治体の役人を非難し、「もし政府の環境改善に協力しなければ逮捕する」と警告を発した。
観光省は雨季で観光客が少なくなる6月から7月までの2カ月間を閉鎖し、下水施設の整備などのインフラ改善を集中的に進めるべきだと提案。一方、内務自治省はもっと長い6カ月の閉鎖を提案しており、ドゥテルテ氏もこの案に乗り気だという。
観光省によると国内有数のリゾート地であるボラカイ島には、2017年に約200万人の観光客が訪れ、16年と比べ16%の増加となっている。小さな島にも関わらず、昨年だけで1万7000人の雇用を生み出しており、もし閉鎖となれば地域経済に大きな影響が出るのは必至だ。すでに現地に乗り入れている航空会社は、島の閉鎖に備え、フライトスケジュールの変更やチケットの払い戻しなどの準備を急いでいる。
環境天然資源省はボラカイ島に続き、ボホール州のパングラオ島や、パラワン州プエルトガレラなどの有名リゾートでも、汚染の監視を強化する方針を示している。また、パングラオ島ではボラカイ島と同じように下水施設を備えない施設が確認され、一部の海水浴場では基準を上回る大腸菌が検出されているという。
しかし、このような一連の動きとは裏腹に、国営の娯楽賭博公社がボラカイ島にマカオのリゾート大手会社のカジノを建設する許可を与え、環境保全の方針と矛盾するとして批判を受けている。
自然を楽しむためのボラカイ島にカジノは相応しくないとの意見もあり、観光客誘致と環境保全の両立は今後も難航しそうだ。