「ユーラシア戦略」シンポ、中露が競合と協調
IIST(一般財団法人貿易研修センター)・中央ユーラシア調査会はこのほど、都内で「中国とロシアのユーラシアアジア戦略と中央アジアの対応」をテーマにシンポジウムを開催し、習近平国家主席の「一帯一路」路線とプーチン大統領の「ユーラシア経済同盟」戦略の展望と中央アジアに対する政治的影響力を論じ、地域専門家や外交官、ジャーナリストら約120人が参加した。
(池永達夫)
中央アジアに反中感情 袴田氏
対米挫折で「一帯一路」 高原氏
中露も同床異夢の側面 田口氏
海の時代から陸の時代 田中氏
まず基調講演に立った新潟県立大学の袴田茂樹教授は、「カリモフ大統領時代のウズベキスタンは綿花など資源輸出に特化していた経済だったが、ミルジョエフ新大統領は軍事産業育成路線を打ち出し、協力姿勢を鮮明にしている中国が工場建設に動いている」と報告。ロシアは中央アジアへの政治的影響力をまだ保持しており、一方の中央アジア諸国ではトップクラスに中国の影響はあるものの、国民レベルでは反中感情が存在すると指摘した。
なお袴田氏は、「ミルジョエフ新大統領にとって最重要課題は、中国のカシュガルからキルギスのオシュを経由しウズベクに至る鉄道建設だ」と述べた。これが実現すると、ウズベクと中国東部の港湾が連結され、極東アジアや東南アジアの市場にウズベクの商品輸出が可能になるからだ。
ただ、今のところ鉄道建設に関して関係国の調整は進んでいない。最大の確執は軌道の幅だ。中国は標準軌(1435ミリ)を主張するものの、旧ソ連はロシアに合わせて広軌(1520ミリ)を要求し、合意形成ができていないとのことだ。
なお、この鉄道建設に関し袴田氏は「軍事的には極めて大きな意味を持つ。紛争発生時に、戦車や兵士を迅速に送れるかどうか決め手になる」との見解を述べた。
東京大学の高原明生教授は、中国の外交路線の視点から中国の「一帯一路」路線をひもといた。
当初、習近平政権の対外政策の眼目は、対米関係の安定・発展だった。
中国は米国に対し、新型大国関係の構築を呼び掛け、利益の相互尊重をベースとしたウィンウィン関係強化に動いた経緯がある。ただ、中国が言う核心利益には、南シナ海や、場合によっては尖閣も含まれる。そうなると米国も受け入れられなくなり、新型大国関係は挫折する。
すると伝統的中国外交のパターンとして、日本やドイツに向くようになる。こうしたパターンが2014年末期ごろから現れ、中国の最重点外交は一帯一路になりユーラシアに振り子が揺れた。外交政策の観点からは、そう位置付けができると高原氏は指摘した。
さらに高原氏は、一帯一路には中国中心の東アジア経済圏とドイツ中心の欧州経済圏をつなぎ中間地帯を発展させるというベーシックな考え方と同時に、中国の余剰生産能力を外に振り向ける発想もあると言及した。
外務省欧州局の田口精一郎・中央アジア・コーカサス室長は、3年前に交わされたロシア主導のユーラシア経済同盟と中国主導の一帯一路の「接合」協力に関する露中共同声明に関し、ウクライナ危機を受け欧米と激しく対立するロシアが、中国と中央アジアにおいて真っ向から対立しないための政治的声明であり、調整メカニズムを働かせた結果でもあるとの認識を示した。
さらに田口氏は、ロシアは一帯一路による中央アジアで中国のさらなる影響力の拡大に警戒感も持っていると指摘し、同床異夢の側面も示唆した。
司会役を務めた中央アジア・コーカサス研究所の田中哲二所長は、「今、『大航海時代』以来続いてきた『海の国の時代』が、英国、米国の『自国第一主義化』によって終焉し、中国、ロシアを中心とする『陸の国の時代』に向いつつあるとの見方がある。今後の、インドとインドネシアの台頭を織り込むと必ずしも一直線の『陸の国の時代』に進むことにはならないかもしれないが、習近平国家主席の『一帯一路』路線とプーチン大統領の『ユーラシア経済同盟』戦略は時代の先行きに大きな影響を与えることは間違いない」と展望した。