マニラ市に突然の慰安婦像、無許可設置の疑いも
中華系出資者が警備員派遣
突如として設置され、物議を醸しているマニラ市の慰安婦像。日本大使館も設置後にようやく事実を把握しフィリピン政府に抗議したほどで、意図的に水面下で計画を進めていたことは明らかだ。慰安婦像には政府機関のフィリピン国家歴史委員会の関与が分かっているが、中華系財団が適切な許可を受けずに強引に設置した疑いも浮上している。
(マニラ・福島純一)
地元メディアによると慰安婦像があるマニラ市の当局者は、「設置許可を出す立場になく、許可を出すこともできない」と慰安婦像設置への関与を全面否定するなど、現地の中華系団体が無許可のまま設置した可能性が浮上している。マニラ市長の秘書によると慰安婦像の設置を推進したのは、「マヌエル・チュア」という人物が率いる中華系の「トゥライ財団」で、市側は像の設置に関する問い合わせを受け、公共事業省からの許可が必要だとアドバイスしたという。
慰安婦像が設置されたのは、マニラ湾に面する遊歩道の一角。庶民の憩いの場であり外国人も訪れる観光名所で、多くの人々の目に触れる場所だ。日本大使館からも数キロと比較的近くにあり、同じくロハス大通りに面する米国大使館からはさらに近い。
現地を訪れると熱心に慰安婦像の写真を撮る中国系の女性や、足を止めて慰安婦像に見入る韓国人と思われる男性たちの姿を見かけた。これから注目を集めれば、急増している中国や韓国からの観光客の新たな観光地となる可能性もある。
驚いたのは慰安婦像を担当する警備員がいたことだ。素朴な感じがする警備員と話すと2交代で24時間体制の警備を行っていると説明してくれた。確かにこの周辺には路上生活者なども多く、日没後はあまり治安のいい場所とは言えない。とはいえ、周辺にある他の偉人像には警備員などは当然付いてなく、異例の扱いであることは間違いない。
慰安婦像の警備員に雇い主を聞くとマニラ市ではなく、同像の場所からほど近い所にあるアロハホテルから派遣されていると語った。ホテルの経営者は慰安婦像の設置に出資した中華系の人物だという。
慰安婦像の台座の背面に金色の字で記された寄贈者一覧を見ると、中国系メディアが報じることの多い「リラ・フィリピーナ」(慰安婦被害者の会)の下に中国系の人物名や団体名が並んでいた。フィリピン系の名前は像の制作者を示すプレートにかろうじて記されているという有様だ。一般的なフィリピン人の意思によって設置されたとはとても感じられない。地元メディアを差し置いて中国メディアだけが立ち会った除幕式の状況から、その背景は明らかと言える。
フィリピン国家歴史委員会の名前が記されている像の前面のプレートには、「日本の占領下で虐待を受けたフィリピン人女性の記憶」などと記されており、慰安婦という具体的な言葉は出てこない。しかし、像の台座の土台敷石の後ろ側地面に張られた小さなプレートをよく見ると、製作者の名前と一緒に「Filipina comfort woman statue(フィリピン人慰安婦像)」と、目立たないが記述してある。
慰安婦像が設置された遊歩道とその一帯には、元大統領など実在した歴史的人物の像がいくつも存在する。それらに紛れるように慰安婦像を設置することで、慰安婦問題の既成事実化を図る目的があるのは疑い得ないだろう。
慰安婦像の設置をめぐっては、日本大使館からの問い合わせを受けたフィリピン外務省が設置の経緯を調べ出したことで、各機関の責任のなすり付け合いが始まっている。しかし今のところ撤去に向けた動きは見られず、年末年始をまたいで問題が鎮静化してしまう可能性も高い。
このまま撤去が検討されなければ、フィリピンにおける慰安婦像問題は日本側の敗北となりそうだ。今後は別の地域に設置を拡大しないようフィリピン政府に働き掛けるなど、早目の対応が求められる。