エルサレム「首都」宣言の波紋 中東和平交渉に影響も

 トランプ米大統領による「エルサレムはイスラエルの首都」宣言を受けて、世界各地でアラブ人やイスラム教徒らを主体とした抗議行動が発生した。宣言が、国際社会にとって「吉」と出るか「凶」と出るかは不明だが、膠着(こうちゃく)状態の中東和平交渉に何らかの影響を及ぼす可能性がある。中米グアテマラのジミー・モラレス大統領は24日、在イスラエル大使館をエルサレムに移転させると発表した。
(カイロ・鈴木眞吉)

国連決議案に65カ国が賛成せず

 国連安保理は18日、「エルサレムの地位を変えるいかなる決定も無効」と宣言の撤回を求める決議案の採決を行った。米国が拒否権を行使し、否決された。

ヘイリー氏

18日、ニューヨークの国連安保理で、エルサレム問題をめぐる決議案に反対するヘイリー米国連大使(AFP=時事)

 一方、21日の国連(193カ国)緊急特別総会では、同様の決議案を、賛成128、反対9、棄権35で採択した。欠席は21。11月末に行われたエルサレムに関する別の採決と比較すると、賛成は23も減り、棄権は26増え、反対は3増え、欠席は6減った。

 棄権した国は、アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、チェコ、メキシコ、フィリピン、ポーランド、ルーマニアなどで、欠席した国はウクライナやケニア、モンゴル、ミャンマーなど。ウクライナは安保理での決議案には賛成しており、3日で態度を変えたことになる。

 予想を上回る数の棄権国家が出たことと、反対、棄権、欠席で決議案に賛成しなかった国が65カ国(全体の約3分の1)にも及んだことに、世界各国に衝撃が広がった。不賛成に回った理由は、トランプ米大統領とヘイリー米国連大使のメッセージに反応したためとみられている。

 トランプ氏は20日の閣議で、「米国から数億、数十億㌦も受け取りながら、われわれに反対するなら、好きにさせておけ。われわれは(経済援助を)たくさん節約できる。構うものか」と語り、決議案に賛成する国には援助を打ち切る姿勢を示した。

 ヘイリー氏は19日、加盟国に書簡を送って決議案を支持しないよう要請、「米国の決定に反対した国の名を大統領に報告する」と牽制(けんせい)した。

 同氏は採択後、ツイッターで、賛成しなかった65カ国の国名を列挙、「無責任な行動を取らなかった国に感謝する」と投稿、さらに、これらの国々に「米国への友情に感謝する」と記したレセプションへの招待状を送り、賛成国を牽制した。同レセプションは来月3日に開催される。

 投票結果は、米政府の「警告」が影響した可能性はあるものの、そればかりとはいえない側面もありそうだ。チェコは棄権理由として、「中東和平に寄与せず、むしろイスラエルとパレスチナの対立を深めるだけだ」と指摘した。

 賛成票を投じた国家群の中でも、例えばアラブ諸国、ことに、エジプトやヨルダン、サウジアラビアなどは建前と本音とを区別しているようにも見える。エジプトは、米国から年間約14億㌦(約1600億円)もの支援を受けている。パレスチナを支援する従来の立場を維持せざるを得なかったものの事情は複雑だ。シシ・エジプト大統領はペンス米副大統領との会談を受け入れていた。サウジはイランからの脅威への対抗を最優先、イスラエルとの関係強化を図っている。パレスチナの動きは限定的で、第3次インティファーダ(民衆蜂起)は不発気味だ。

 ネタニヤフ・イスラエル首相は、パレスチナと国際社会に対し、一貫して「(エルサレムがイスラエルの首都だった)歴史と現実を直視するよう」訴え、「解決は直視から始まる」と強調している。

 今後、グアテマラに続く国の出現も考えられ、膠着した和平交渉が動きだす可能性もある。