比、和平交渉打ち切り
NPAの襲撃相次ぐ
共産勢力との関係決裂
フィリピンのドゥテルテ大統領は11月23日、共産勢力との和平交渉の打ち切りを宣言した。各地で襲撃を繰り返す軍事部門の新人民軍(NPA)をテロ組織と認識する方針を示し、全面戦争も辞さない構えだ。戒厳令に反発し攻勢を強めるNPAは、各地で警察への待ち伏せ攻撃を繰り返しているが、一般市民が巻き込まれるケースも相次ぎ死者も出ている。
(マニラ・福島純一)
政権発足当初からドゥテルテ氏は共産勢力に一定の理解を示し、前政権で中断していた和平交渉を再開する方針を打ち出していた。共産系の人物を積極的に閣僚に登用したほか、大量の政治犯の釈放に応じるなど、共産勢力の信頼を得て和平交渉は好調な滑り出しとなったが、停戦協定を無視したNPAの襲撃が各地で相次ぎ雲行きが怪しくなった。
さらに南部マラウィ市で起きたイスラム過激派による占拠事件に伴い、活動地域であるミンダナオ島に戒厳令が敷かれたことに反発を強めたNPAは、各地で警察襲撃や企業への恐喝を活発化させた。政府と共産勢力との溝はさらに深まり、関係悪化は決定的なものとなった。
11月18日にドゥテルテ氏は、NPAがブキドノン州で行った警官への待ち伏せ攻撃で4カ月の赤ん坊が流れ弾で死亡した事件に触れ、「米国と同様にNPAをテロリストとして認識する」と宣言。全面戦争も辞さない構えを示した。さらに合法的な左派系組織に関してもNPAと共謀していると指摘し、取り締まりを強化する方針を示した。
NPAは各地で警察車列への襲撃を繰り返しており、10月にはスウェーデン人の観光客2人が銃撃戦に巻き込まれて負傷するなど、イスラム過激派と同じように治安上の大きな脅威となっている。
さらにドゥテルテ氏は、共産ゲリラのNPAが要求する革命税の支払いに応じている企業に対し、支払いをやめるよう強く求めた。革命税はNPAの資金源となっており、農園や鉱山などの外資系企業などに要求するいわゆる「みかじめ料」で、支払いを拒否すると施設や重機を破壊するなどの激しい営業妨害を受ける。ドゥテルテ氏は「すべての鉱山企業がNPAに革命税を支払っている」と現状を指摘し、今後も支払い続ける企業は、NPAの支援者と見なして閉鎖に踏み切る可能性もあると警告を発した。
フィリピン南部では外資系農園へのNPAの襲撃が相次いでおり、10月にはデルモンテ社のほか日系のスミフル社の農園が襲撃され、トラックや設備に放火されて大きな損害を受けている。NPAは海外企業がフィリピンに進出する際の懸念事項の一つだ。政府がミンダナオ島の経済発展を促す上で、NPAとイスラム過激派の脅威の排除は避けて通れない課題となっているが、和平交渉が決裂した今、武力衝突は避けられない状況にある。
11月28日にはルソン島バタンガス州で、国軍とNPAが交戦となりNPAメンバー14人が死亡している。またイロイロ州では24日に、警官隊の車列がNPAの待ち伏せ攻撃を受け、警官1人が死亡し10人が負傷した。地元警察によるとパトロールから戻る途中で待ち伏せ攻撃を受け、路肩で地雷が爆発したあと激しく銃撃されたという。NPAとの交戦は徐々に激しさを増している印象だ。
オランダに亡命中のフィリピン共産党の創設者マリア・シソン氏が、合法的組織の取り締まりを示唆したドゥテルテ氏を「ナンバーワンのテロリストだ」と非難する一方、ドゥテルテ氏は「シソン氏が帰国すればテロリストとして逮捕する」と言い切った。両者の亀裂は修復し難いものとなっており、現政権下での和平交渉再開は絶望的な状況にある。

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