エジプト政府、ウイグル人留学生ら中国に強制送還
エジプト政府は先月3日から、イスラム教スンニ派の最高権威機関アズハルなどで学ぶウイグル人の留学生を拘束し、中国への強制送還を行っている。中国での過激派活動を計画していたという理由からだが、ウイグル人の力を抑え込みたい中国側の一方的な要請によるものとの見方が強い。留学生たちが中国に送り返されれば、強制収容所などに入れられるとして、各国のウイグル団体は留学生たちの救出とエジプトへの抗議を国際社会に呼び掛けている。
(社会部・石井孝秀)
中国政府の要請か、200人拘束
ウイグル団体が救出訴え
日本ウイグル連盟によれば、エジプト国内では現在200人超が収監され、中国に送り返された学生は既に30~40人に上る。エジプトは中国のパスポートでビザが取りやすく、また物価も高くない。ウイグル人にとって住みやすいため、ここ数年で1000人以上のウイグル人が留学し、アズハルにも数百人が在籍している。
しかし、エジプト警察と中国から派遣された警察官とが合同調査を行い、アズハルなどの大学で名簿を回収し、ウイグル人留学生の検挙を進めている。捜査を逃れるため、トルコに約200人の学生が避難。陸路でモロッコまで避難し、同連盟からの援助でヨーロッパに逃れた学生もいるという。拘束された学生の7割以上はイスラム教やイスラム系の社会学を学んでおり、同連盟のトゥール・ムハメット代表は「大学でイスラム教を学ぶ若者は将来人々のリーダーになり得るため、中国共産党は国を挙げて留学生たちを処分しようとしている」と語る。
ムハメット代表によれば、新疆ウイグル自治区のモスクで活動している政府公認のイスラム教指導者は中国共産党の運営する神学校の卒業生で、共産主義や無神論に基づいた信仰指導を行っている。このため本格的なイスラム教を学ぼうとするウイグル人は国外に留学する傾向にある。
留学生の数が増加することに、危機感を抱く中国政府は去年の9月ごろから留学生たちに帰国を促し始め、今年3月から5月にかけては世界中のウイグル人留学生に対して「中国に一時帰国して、自身の現状を報告してから、留学の再認可を受けるように」との通達を出していた。ところが指示に従って帰国した多くの学生が消息を絶ったため、留学生たちは警戒して帰国しなくなり、中国政府がエジプト政府と共に強硬手段に出たとみられる。
中国全土の約6分の1の面積を占める新疆ウイグル自治区ではこれまでも何度か中国当局のウイグル人弾圧が行われてきた。2009年7月5日には区都ウルムチでデモ行進を行っていたウイグル人の労働者を中国の軍や警察が制圧し、197人(当局発表)が死亡。14年7月にはヤルカンド県で警察と住民が衝突し、老人や子供を含む多数の犠牲者が出た。
近年はウイグル人の宗教活動への規制が強まっており、これらの弾圧が逆にイスラム教への関心を高め、留学生の増加に拍車を掛けたとムハメット代表は指摘している。海外のウイグル人への圧迫は以前から行われており、90年代にキルギスやカザフスタンなどが上海協力機構(当時上海ファイブ)に加盟した際にも加盟国内のウイグル人の拘束や中国への強制送還が行われていた。だが、今回のエジプトのような数百人規模の拘束は前例がない。
現在のところ、中国政府の要請でウイグル人留学生の拘束を行っているのはエジプトのみ。またムハメット代表によると、日本に留学していたウイグル人の中にも一時帰国したまま帰って来ない学生が分かっているだけで10人ほどいる。
「何が起こったか分からないが、推測すれば刑務所か強制収容所に行っているかのどちらか。日本からいなくなったウイグル人を探す責任が日本政府にはある。帰って来ないウイグル人留学生の情報を公表し、中国に真相を追及してほしい」と同代表は訴える。







