比マラウィ市占拠1ヵ月、IS拠点化に懸念

過激派組織、周到な準備か

 フィリピン南部マラウィ市で続く「イスラム国」(IS)系の過激派と治安部隊の戦闘は、1カ月を迎えようとしている。予想外の抵抗で国軍による制圧作戦は難航しており、死者は300人を超えた。戦場と化した市街地が、このままISの拠点と化すのではないかとの懸念も高まっている。
(マニラ・福島純一)

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21日、フィリピン南部ミンダナオ島のピグカワヤン村で、避難するため子供をトラックに乗せる人々(EPA=時事)

 マラウィ市で先月23日から始まったイスラム過激派マウテグループと治安部隊の戦闘で、19日までに349人以上が死亡したことが分かった。政府関係者によると、国軍兵士や警官65人と民間人26人のほか、少なくとも258人のマウテグループの構成員が死亡した。15日には現地で取材中のオーストラリア人ジャーナリストが、首に銃弾を受け負傷している。

 国軍は400人の増援を送るとともに激しい空爆で過激派への包囲網を狭め、26日のラマダン明けの制圧を目指している。しかし、12日の独立記念日前に実行された制圧作戦では、海兵隊員13人が死亡し、40人が負傷するという甚大な被害を出しており、再び激しい抵抗に遭う可能性もある。

 過激派は人質に取った民間人を人間の盾としているほか、スナイパーを配置するなどして国軍部隊の進行を阻み、地下にトンネルを構築して空爆から逃れているという。長期戦に備え、市内のモスクなどにあらかじめ武器や弾薬を貯蔵していたと考えられており、計画的な襲撃だった可能性が指摘されている。

 フィリピン政府は同市の早期奪還を目指す一方、戒厳令を利用しマウテグループの親族や協力者の逮捕を推し進めている。これまでにマウテグループへの協力が疑われる元マラウィ市長のほか、過激派指導者の両親や家族が相次いで逮捕されている。

 一方、米国の上院議員からは、マラウィ市の奪還が難航してることを受け、フィリピン南部のIS拠点化を懸念し、米軍支援の拡大を検討すべきとの意見も出ている。

 大統領府は、制圧は間近として拠点化の懸念を否定しているが、国内ではこれまで既存のイスラム過激派や共産ゲリラの対応に手を焼き、歴代政権で和平問題が大きな課題として常に横たわってきた。

 近年ではイスラム過激派が貨物船を乗っ取り、外国人船員の誘拐を繰り返すなど、比南部周辺の海域は東南アジア有数の危険地帯と化し、フィリピンの沿岸警備の脆(もろ)さが露呈。この脆弱(ぜいじゃく)性が外国人テロリストを引き寄せる土壌となり、ISの影響拡大やマラウィ市占拠の一因となった。

 戒厳令を布告したからといって、この状況が改善される保証はなく、戦場と化したマラウィ市の現状を顧みれば、米国の懸念は極めて常識的なものだ。

 ドゥテルテ大統領は、このままマラウィ市の戦闘が長引けば、脅威を感じたキリスト教徒が武装化し、イスラム教徒との内戦になる可能性を指摘。早期に過激派の制圧を達成しなければならないとの考えを示した。

 21日にはマウテグループと同じくISに忠誠を誓うイスラム過激派のバンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)が、ミンダナオ島の北コタバト州ピグカワヤンを襲撃し、治安部隊と激しい銃撃戦となった。複数の住人を誘拐したとの情報もある。

 マラウィ市を占拠するマウテグループを支援するための陽動作戦とみられているが、戒厳令下にもかかわらず、過激派の封じ込めに難航している実態が浮き彫りとなった格好だ。26日にラマダンが明けることで、より多くのイスラム過激派がテロ活動に加わるとの懸念も浮上しており、治安当局が警戒を強めている。