モディ政権3周年、「強いインド」へ邁進

 インド人民党(BJP)のモディ政権が誕生して5月26日で3周年を迎えた。昨年のインドのGDP成長率は7%台と中国より高く、新興5カ国(BRICS)の中で成長が鈍化する中国や経済停滞を余儀なくされているロシアやブラジル、南アフリカと比べても、唯一高度成長を続けている。好調な経済をバックに、モディ首相の強いリーダーシップの下、「南アジアの雄」として「強いインド」構築へ動き出し、軍備増強や近代化を急速に進めてアジアの地域大国としての存在感を発揮しようと躍起だ。
(池永達夫)

アジアの地域大国目指す
安全保障で中国と対峙

 インドの貿易相手国に中国がトップに躍り出るなど、中印の経済関係は強くなっているが、安全保障面では中印戦争で煮え湯を飲まされたインドの中国不信は根強いものがある。海洋大国を目指す中国を牽制(けんせい)するためインドの国防費は、この10年で3倍化し、空母も3隻体制へ向け整備されつつある。ストックホルムの国際平和研究所によると、最近5年間の武器購入費も、インドが世界全体の14%を占め、最大の武器輸入国に浮上した。米国からの武器輸入は2006~10年に比べ11~15年は約12倍に増えている。

モディ氏

インドのモディ首相=1日、ロシア北西部サンクトペテルブルク(AFP=時事)

 インドは、米露英仏に次ぐ空母保有や長距離核弾頭を搭載した原潜など海軍増強を急ピッチで進めながら、一方で近隣諸国との連携を強め、中国を牽制する意向だ。

 近年、インド海軍の艦船がベトナムに寄港。インドはベトナムに高速巡視船の供与も行う。15年にはオーストラリアと初の海軍共同訓練も行った。マラッカ海峡の出口にあるアンダマン・ニコバル諸島では、隔年でタイやインドネシアなどの東南アジア諸国との多国間演習を主催している。

 とりわけ「強いインド」への意志を感じさせたのはモディ政権3周年を迎える直前、北京で開催された「一帯一路」国際会議への参加拒否だった。中国の習近平国家主席とすれば、同国際会議は5年に1度開かれる秋の共産党大会に向けた政権浮揚の檜(ひのき)舞台だった。各国の元首を北京に集め「中国がユーラシア大陸の盟主」だと世界にアピールし、共産党長老の支持を取り付けようとしたのだ。

 インドはその習氏の思惑にそっぽを向いたのだ。これまでインドは、自国領シッキムやカシミールへの中国人民解放軍の進攻などがあっても、忍従を重ね、中印海軍の共同訓練などに応じてきた経緯がある。そのインドを豹変(ひょうへん)させたのは、インドをローカルパワーと見下し露骨なインド洋進出を図る中国への懸念だ。

サヒャディ

満艦飾を施したインド海軍フリゲート「サヒャディ」=2015年10月17日、神奈川県の海上自衛隊横須賀基地、森啓造撮影

 中国はパキスタンのグアダル港やスリランカのハンバントタ港、ミャンマーのチャオピュー港、バングラデシュのチッタゴン港などインドを取り囲む「真珠の首飾り」と呼ばれる港湾建設に莫大(ばくだい)な投資をしてきた。当初は物流拠点のインフラ整備だと言いながら、昨年には中国人民解放軍の潜水艦がスリランカに寄港した。アフリカ東部のジブチのように、いずれ軍事基地化するのは時間の問題だ。中国の「真珠の首飾り」戦略は、インド包囲網構築につながる。

 とりわけインドが懸念するのは、インド洋への海洋進出をダイナミックに進め、有事の際のマラッカリスクを回避するため、パキスタンをバイパスとして道路や鉄道を整備し中国西部の新疆ウイグル自治区と結ぶ「中パ経済回廊」構築に動き出していることだ。マラッカリスクとは、有事の際にシーレーンの要衝となるマラッカを米軍に押さえられ、石油や天然ガスなどの物流を止められてしまうリスクをいう。中国がミャンマーのアンダマン海に面するチャオピューと雲南省昆明市を結ぶ原油と天然ガスのパイプラインを造ったのもマラッカリスク回避のためとされる。

 無論、「中パ経済回廊」がカシミール問題と絡んでいることも大きい。パキスタンと領有権を争うカシミールを通る「中パ経済回廊」に、中国は5兆円もの資金を投入する。国内にイスラム人口1億3000万人を擁するインドとしては、カシミール問題で妥協することは国内の分離主義機運を刺激し、統一を揺さぶるリスクを高めることを意味する。

 いずれにせよ、インドが中国と経済関係を維持しつつも安全保障で対峙(たいじ)する方針を打ち出したことの歴史的意味は大きなものがある。