露呈した「インドの反中」、中国「一帯一路」国際会議
中国の習近平国家主席が提唱した新シルクロード経済圏構想「一帯一路」に関する国際会議が今週初め、北京で開催された。会議にはロシアのプーチン大統領ら30カ国の首脳級を含め、100カ国以上の代表が参加。しかし、2025年にも中国の人口を超えて14億4700万人(国連推計)となり、世界一の人口規模となるユーラシア大陸のもう「一つの巨人」インドが中国の参加要請を拒否し、代表を送り込むことはなかった。インドにとって長年の宿敵パキスタンに肩入れし、インド洋への野心を隠さない中国への反発があるためだ。(池永達夫)
インド洋で「龍虎の戦い」?
「鶴翼の陣」にほころび
これまでインドは、自国領シッキムやカシミールへの中国人民解放軍の進攻などがあっても、忍従を重ね、中印海軍の共同訓練などに応じてきた経緯がある。インドは一帯一路の資金供給源でもあるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の加盟国でもある。
その意味では、今回の国際会議への参加要請を拒否して、代表を送り込まなかったことの意味合いは大きなものがある。少なくとも陸路と海路でユーラシア大陸を抱え込む格好の「鶴翼の陣」にほころびが生じたことになる。
表立ってはパキスタンと領有権を争うカシミールを通る「中パ経済回廊」に中国は5兆円もの資金を投入する一帯一路の目玉にもなっていることにインドは国益に反したものと懸念を隠さない。領土問題という国家の核心に土足で入り込む中国の覇権主義的手法に反発したのだ。
そもそも中国はパキスタンのグアダル港やスリランカのハンバントタ港、ミャンマーのチャオピュー港、バングラデシュのチッタゴン港など「真珠の首飾り」と呼ばれるインドを取り囲む港湾建設に莫大な投資をしてきた。
当初は物流拠点のインフラ整備だと言いながら、昨年には中国人民解放軍の潜水艦がスリランカに寄港した。アフリカ東部のジブチがそうであるように、いずれ軍事基地化するのは時間の問題だ。
スリランカのハンバントタ港に関しては、中国が出した建設資金の返済に苦しむスリランカ政府の窮状に付け込む格好で、中国は同港の管理権だけでなく警護権をも主張し始めている。これでは他国への支援とは言えず、借金漬けにすることによって支配権を取得する植民地政策と何ら変わることがない。
21世紀は「インド洋の時代」だと言われる。東に「チャイナ+1」で経済的活力を増しつつある総人口規模6億人の東南アジア諸国連合(ASEAN)があり、西には天然ガス・原油の宝庫の中東と「21世紀はアフリカの世紀」と言われるほど潜在力に満ちたアフリカが存在する。その中心に位置するインドとすれば、インド洋に布石を打ち始めている中国は安全保障上、看過できない対象になりつつある。
地政学変える中国
一方の中国からすれば、新興勢力が地歩を築くには米国の影響力が及ばない独自の勢力圏を構築することが急務だ。その意味では、「20世紀の太平洋」に等しい地政学的重要性が高いインド洋に出て行くことの意義は大きい。米国から最も離れた海であるインド洋で影響力を強めようとしている中国には、そうした遠謀がある。
そうした趨勢(すうせい)からすると、中国とインドとの確執は避けられない。今回、北京で開催された「一帯一路」国際会議に代表を送り込まなかったインドの選択は、歴史から俯瞰(ふかん)するとインド洋における「龍虎の戦い」の火蓋が切られたことになるのかもしれない。
いずれにしても道路や鉄道、港湾といったインフラ整備は地政学を変えるインパクトがある。中国のウイグル自治区とパキスタンのグアダル港をパイプラインや鉄道、道路で結ぶ「中パ経済回廊」は中国とすればマラッカ通航が不要となるだけでなく、インド洋にダイレクトに進出できる橋頭堡(きょうとうほ)となる。