中国人ブロガーが日本再発見 笹川財団で出版シンポ
中国の人気ブロガーたちが、日本を訪問し直接、見て触れて感じた記録が昨年3月、中国で出版された。題名は「大家看日本」(皆が見る日本)。その邦訳「来た!見た!感じた!ナゾの国 おどろきの国 でも気になる国 日本」が今春、日本でも刊行され、出版シンポがこのほど、東京港区の笹川平和財団ビルで開催された。
(池永達夫)
農村、食べ物、製造業に感心
非政府のNHKに驚き
中国人人気ブロガーたちを日本に招待し、取材機会を提供したのは笹川日中友好基金。大多数の中国人にとって、日本情報は限定的であり、時に歴史教育で偏見や誤解を含むものもあるのが現実だ。同基金は、そうした問題を少しでも取り除こうとの思いから、現実の日本に触れてもらおうと35人の中国人ブロガーに取材機会を提供した。
今回の招待取材だけでなく年に2~3度は日本を旅する封新城「新周刊」元編集長は「清潔で食べ物がおいしく日本が好きになった。とりわけ農村風景に思い入れが強い。長野や瀬戸内海では郷愁さえ覚える。農村が破壊された中国とは質的に違う」と語る。
17年間、新華社の中東担当記者だった馬暁霖・北京外国語大教授は「中国は日本の製造業に学ぶべきだ。革新的付加価値を付与できる底力がある」と述べる。
作家で単向街書店代表の許知遠氏は「中国は再び強くなろうとしているが、アジアの変革者である日本に学ばないといけない」と語った上で、「福沢諭吉も孫文も豊かで強い国を目指したが、日中が討論するプラットフォームがなくなった。これをいかに回復するのかが課題だ。漢字文化はその日中の共通プラットフォームになり得るが、東アジアでは政治問題は避けることはできない」と述べた。
「東方歴史評論」編集長の李礼氏は「中国人の若者は、日本のアニメに大きな影響を受けて育った。賢くて勇敢な一休さんやロボット猫のドラえもんなど、誰も知らない人はいないほどだ。ただ、現実問題として日中の政治関係改善は難しい問題だ。それでも日本に来た人とそうでない人は違う」と語る。
米中新視角基金会会長の周志興氏は「メディアの交流が大事だ。いずれにも偏見がある。そのままだと情報にフィルターが掛けられる」と、中国と日本のファクトを見る相互交流の重要性を説いた上で「中国の改革開放を最初に支援したのは日本だし、天安門事件後、(国際的孤立を余儀なくされる中)最初に中国支援したのも日本だった」と述べた。また周氏は「北朝鮮への軍事攻撃がいろいろ言われているが、叩くべき時には叩け」と率直な意見を述べた。
これにフロアも反応し、中国人ブロガーが北朝鮮をどう見ているのか質問が出た。周氏は「中国と北朝鮮の関係は血と汗でつくり出したものだが、中国人エリートは北朝鮮がマイナス資産だと認識し始めている」として「北とは一線を引くべきだが、米国は韓国にTHAADミサイルの配備はすべきではない」と主張した。
また章氏は「北朝鮮には6日ほど訪問したことがあるが、中国の70年代と似ている。商店や棚の置き方まで似ている。携帯が使えなかったが、板門店ではつながった。韓国に近いからだ」と回想し、「中国は韓国とつながっていると感じる」と述べた。
馬氏は「中国人で金王朝が好きな人はいないが、北朝鮮を失うことは東北地方の安全保障が脅かされることを意味する」として、中国が北朝鮮を庇護(ひご)する背景を示唆した。
なお「ナゾの国 おどろきの国 でも気になる国 日本」で目を引くのは、智族GQ編集長・包麗敏氏の「NHK取材記」だ。
東日本大震災の発生時に見せたNHKの大災害報道のプロフェッショナルぶりは、中国の多くのメディア関係者に讃嘆(さんたん)の声をもたらした。包氏もその一人だったが、東京渋谷のNHKを訪問した包氏は、さらなる驚嘆の声を上げたことを率直に書いている。
訪問するまで包氏はNHKというのは、中国中央電視台(CCTV)のようなものだと思っていた。しかし、NHKのロビーにあるテレビモニターで冗長かつ無味乾燥な国会の生中継を見て誤りだと気づく。NHKは国営テレビ局でも民間テレビ局でもない非政府、非営利の公共テレビ局ということを理解するのだ。
中央電視台は、独占的地位と巨額の広告収入を得ている。中央電視台は政府のコントロールを受け入れる国営商業テレビ局であっても、NHKのような非政府、非営利ではない。
世論は上からの「正論」の押し付けで育つものではない。笹川日中友好基金の試みが、メディアを共産党政権の広報としか見ない中国の中に新たな視座を提供した意味は決して小さくはない。