中国から北風 米国から突風

台湾・蔡英文総統就任から半年

中国人観光客は激減

 台湾のトップである総統に民進党主席の蔡英文氏が就任して半年が過ぎた。中国は「一つの中国」原則を認めない蔡政権との公式対話を一方的に中断し、中国人観光客の台湾訪問のバルブを閉めるなど中台関係は冷え込んでいる。さらに、8日の米大統領選挙で当選したトランプ氏がどういった対中政策を打ち出すかで、台湾は大きく揺さぶられる立場にある。いわば台湾は中国の北風と米国からの突風にさらされている格好だ。
(池永達夫)

大陸からの投資は変わらず

 21日に開催された東京台北経済貿易フォーラム(主催・東京商工会議所、台北市進出口商業同業公会)で黄呈琮台北市進出口商業同業公会理事長は「台湾を訪問する観光客は年間約1000万人。そのうち400万人が中国人だが、10月以降は前年同期比で7割減少している。ただし、大陸の台湾投資は新政権誕生の5月20日以降、影響を受けていない」と述べた。

謝長廷

東京台北経済貿易フォーラムで語る謝長廷・台北駐日経済文化代表処駐日代表=東京商工会議所

 中国は中国人観光客が台湾を訪問するのに必要な書類の発給を遅らせ、台湾に対し「一つの中国」を受け入れるよう圧力をかけ続けている。

 台湾を訪問する中国人は、国民党・馬政権が2008年、本格的な受け入れに踏み切って以来、急増。10年に158万人に達し、初めて日本人観光客を抜いて国・地域別でトップに躍り出た。昨年は414万人に上り、域外からの観光客の4割を占めるまでになっていた。

 辺り構わず大声でしゃべり、立ちションやゴミの散乱など、マナーの悪さが原因で台湾人とのトラブルも頻発し、あつれきも生じていたが、その中国人観光客が来なくなると、ホテルやレストラン、観光地などへの損失は少なくなく、台湾経済が受けるダメージは徐々に厳しさを増している。

 こうした減少に転じた中国人観光客を補うため、台湾外交部は8月から従来のシンガポールやマレーシアに加え、タイやブルネイからの観光客に30日以内のビザ免除を試験的に導入した。また、9月からはミャンマー、カンボジア、ラオスからの観光客を対象に、条件付きビザ免除や、団体客ビザ発給の簡素化で、東南アジア諸国連合(ASEAN)からの観光客底上げに注力している。しかし、まだ中国人観光客の減少分を補うほどの効果は出ていない。

 また昨年1年間の台湾の全輸出額に占める対中国割合は40%、今年6月までの台湾の対外投資累計額における中国向け比率は60%と高い。

 蔡政権はこうした過度の対中依存を是正し、ASEANやインドなどへの重点投資を狙った「新南向政策」へと舵(かじ)を切っている。

 なお、カナダのモントリオールで9月下旬に開催された国際民間航空機関(ICAO)総会から台湾は締め出され、インドネシアで今月初旬、開かれたインターポール(国際刑事警察機構)総会のオブザーバー参加も認められなかった。いずれも「一つの中国」を認めない蔡政権への“嫌がらせ”だ。

 台湾はこうした中国の北風にさらされているだけではない。安全保障面での最大の後ろ盾である米国からはトランプ旋風が巻き起こっている。その風向きこそ読み切れないものの、吹けば思いもよらない破壊力をも想定される。

 24日、東京・日比谷の日本プレスセンターで開催された日台シンポで毎日新聞編集委員の坂東賢治氏は「オバマ政権は、台湾への武器売却が十分ではなく、台湾海峡の軍事バランスが崩れた。リバランスといいながら、オバマ政権の棍棒(こんぼう)は小さかった」と述べ、軍事力を背景に中国と交渉すればうまくいくといった考え方の対中強硬派が周囲にいるトランプ新政権への期待を語った。

 安全保障問題では米国最大の民間研究所であるランド研究所はこのほど、「米中戦争」をテーマにした報告書をまとめ、米中戦争が勃発するきっかけとして「中国の台湾に対する軍事的な攻撃あるいは威嚇」や「東シナ海の尖閣諸島などをめぐる日中両国の軍事摩擦」などを掲げた。来年1月20日に発足するトランス新政権が「大きな棍棒」を持ち出して、東アジアの安全保障を担保できるのか、あるいは大国間の狭間で日台は大海に揺れる木の葉のような揺さぶりを受けるのか注意を要する。

 21日の東京台北経済貿易フォーラムで台北駐日経済文化代表処駐日代表の謝長廷氏は「地震や台風災害があるたび、日台は家族のように助け合う絆ができている」とハートの世界でつながっている日台関係の強さを強調した。日台は自然災害だけでなく、安全保障を共同で補い東アジアの経済を牽引(けんいん)していくリーダーシップが問われてくる。