フィリピン南部で武装勢力による混乱続く
アキノ前政権での包括的和平合意に基づき、ドゥテルテ政権と和平プロセスを進めているフィリピンの反政府イスラム勢力のモロ・イスラム解放戦線(MILF)。しかし内部には複数の派閥が存在し、土地問題などをめぐる部族的な対立が絶えない。同じくドゥテルテ政権と和平交渉を再開したフィリピン共産党の新人民軍(NPA)も、停戦にもかかわらず民間企業への恐喝を続けている。イスラム過激派アブサヤフも誘拐事件を多発させている。(マニラ・福島純一)
MILF、土地問題めぐり内部抗争
NPA、和平交渉再開も“喝上げ”
アブサヤフ、海賊行為で外国人誘拐
フィリピン南部マギンダナオ州で、MILFの派閥同士の抗争が激化し、少なくとも2人の死者が出たことが分かった。15日にマギンダナオ州の副知事が、MILF上層部に対し対立を沈静化させるよう求めた。抗争が激化しているのは北部カブンタランで、14日には土地問題をめぐり対立する二つのMILFグループが激しい戦闘となった。抗争の原因は「リド」と呼ばれる、土地の所有権などに関するイスラム部族間の争いだ。リドにより同じMILFに属する司令官が、部隊を率いて武力行使に出ることも珍しくなく、治安上の大きな問題となっている。
また南ラナオ州では、MILFの構成員と地元有力者のグループが対立し、大規模な銃撃戦となる事件も起きている。MILFはドゥテルテ大統領の麻薬撲滅キャンペーンに賛同しており、支配地域で独自に麻薬密売人などの摘発を続けている。今回の事件では、拘束した麻薬密売人の一人が地元有力者の身内で、身元の引き渡しをめぐり抗争が勃発。MILFの構成員が少なくとも4人死亡し、数百人の住人が避難する事態となった。政府はMILFと麻薬撲滅キャンペーンで協力することで合意していたが、容疑者逮捕などの権限はないことから、情報提供などの支援活動に限定していたが、実際には守られていない実態が浮き彫りとなった。
MILFはイスラム自治区を求める反政府活動において団結する一方、内部抗争であるリドという問題を抱えており、彼らが本当に武装解除に応じるのかは不透明な状況だ。ミンダナオ島の一部地域は、中央政府の支配が行き届かず、非合法の私兵や武装集団が横行しているのが実態である。ドゥテルテ大統領は、イスラム勢力との和平をめぐり、アキノ前政権の包括的合意を引き継ぎながらも、連邦制を導入する方針を示しており、MILFやMNLF(モロ民族解放戦線)もこれに前向きな姿勢だ。しかし連邦制の導入には改憲が必要であり、ドゥテルテ氏の任期中の実現を危ぶむ声もある。
一方、ドゥテルテ政権で和平交渉が再開したフィリピン共産党の軍事部門であるNPAも、停戦にもかかわらず反政府活動を継続している。
南コタバト州で13日、民間の路線バスがNPAに襲撃される事件があった。国道を走っていたバスが武装集団に停車を迫られ、NPAだと自己紹介した武装集団は、運転手に国道を離れパイナップル農園の敷地に向かうよう指示。そこには別のNPAゲリラが待ち構えており、バスに放火して逃走した。乗員乗客は放火の前に全員降ろされて無事だった。地元警察は革命税の支払いをめぐる脅迫との見方を示している。
和平交渉の蚊帳の外にあるアブサヤフは、国軍の掃討作戦にもかかわらず、依然として誘拐事件を多発させており、フィリピン南部周辺の海域を通過する船舶にとって大きな脅威となっている。
フィリピン南部タウィタウィ州の近海で6日、イスラム過激派アブサヤフがヨットで航行していたドイツ人男性を誘拐したことが分かった。同乗していたドイツ人女性は射殺された。アブサヤフのスポークスマンは、地元紙の電話インタビューで犯行を認め、女性が所持していた銃で抵抗を試みたため射殺したと話した。アブサヤフは2014年にもヨットに乗っていたドイツ人2人を誘拐し、身代金が支払われるまで6カ月間も拘束を続けた。今回も身代金が目的とみられている。
また11日にはバシラン州の近海で、アブサヤフとみられる武装集団がベトナムの貨物船を襲撃し、ベトナム人の船員6人を連れ去った。沿岸警備隊当局によると、約10人の武装集団が貨物船の進路を妨害して貨物船を乗っ取ったという。この襲撃で逃走を試みた1人のベトナム人船員が銃で撃たれて負傷した。襲撃を目撃した別の貨物船の通報で駆け付けた沿岸警備隊によって残りの船員は救助され、負傷者は最寄りの病院に収容された。
アブサヤフによる外国人誘拐は、現地で大きな脅威となっており、在比米国大使館は3日までに、セブ島南部でテロ組織が外国人の誘拐を計画しているとして、自国民に注意喚起を行った。日本大使館や英国大使館、カナダ大使館も米国大使館に続き、フィリピン南部などへの渡航勧告を行い注意を呼び掛けている。地元警察は、具体的な脅威は確認できないとしながらも、警戒を強化する方針を示している。






