比のイスラム過激派アブサヤフ、拉致した外国人を相次ぎ殺害

誘拐防止へ3カ国が協力

 フィリピン南部を拠点とするイスラム過激派のアブサヤフが、その存在感を増している。誘拐した外国人を相次いで殺害し、フィリピン近海では外国の船舶を襲撃し船員を連れ去る事件を多発させている。フィリピンとインドネシア、マレーシアの3カ国は誘拐事件の防止のため、協力してパトロールを行うことで合意した。
(マニラ・福島純一)

次期大統領、組織殲滅に意欲

 13日、アブサヤフに誘拐され人質となっていたカナダ人が殺害されたことが分かった。スルー州ホロ町にある教会近くに頭部だけが遺棄されているのが発見された。これでカナダ人が殺害されたのは4月に続き2人目となった。アブサヤフは期限を設定し、3億ペソという高額な身代金を要求していた。今回殺害された人質は、昨年9月に北ダバオ州サマル島のリゾート施設から、別のカナダ人とノルウェー人、フィリピン人女性と一緒にアブサヤフによって誘拐されていた。国軍は期限を前に、現地に増援部隊を派遣し救出作戦を行っていたが、人質の救出には至らなかった。

ドゥテルテ次期大統領

フィリピンのイスラム過激派アブサヤフの殲滅(せんめつ)に意欲を示すドゥテルテ次期大統領=4月23日、マニラ(AFP=時事)

 また24日には、殺害されたカナダ人と一緒に拉致されていたフィリピン女性が解放された。女性は報道陣に対し、「まるで犬のように扱われた」「私たちは何か間違いを犯すたびに殴られ、地面で食事をさせられた」と、過酷な拉致生活を振り返り、アブサヤフの残虐性を訴えた。身代金の支払いなど解放された経緯は不明だが、ドゥテルテ次期政権で、和平顧問を担当するドゥレサ氏は、今回のアブサヤフの行動が良い兆候であると指摘し、残るノルウェー人の解放に期待感を示した。女性は斬首されて殺害されたカナダ人の婚約者で、約9カ月前にダバオ市沖にあるサマル島のリゾートから、アブサヤフによって連れ去られていた。

 アキノ大統領は15日に、カナダ人男性の頭部が発見されたスルー州ホロ町を訪れ、アブサヤフに対応している警官と国軍を激励し、残る人質の救出に全力を尽くすよう命じた。またアキノ大統領は、アブサヤフに拘束されている人質の救出のため、スルー州に戒厳令を布告することを検討していたことを明らかにし、政府が度重なる誘拐事件を深刻に受け止めていることを強調した。

 しかし22日にはスルー諸島の近海で、アブサヤフと見られる武装集団がインドネシアの貨物船を襲撃し、7人のインドネシア人船員を拉致する事件が起きた。貨物船には13人が乗っていたという。3月にも10人のインドネシア船員が誘拐され、船の所有会社が身代金を支払って5月1日に解放されており、アブサヤフはリゾート地の外国人観光客だけでなく、治安当局の目が行き届きにくい海上で、外国の船舶を狙うケースが増えている。このような状況を踏まえ、アブサヤフによる被害が深刻化しているフィリピンとインドネシア、マレーシアの3カ国は、マニラ首都圏で国防相会議を行い、合同で海上パトロールを行うことで合意した。ホットラインを設置し、アブサヤフへの対応を迅速に行うとしている。

 一方、次期大統領のドゥテルテ氏は、「誘拐をやめさせる」「報いの日が来るだろう」と述べ、他の犯罪組織と同様にアブサヤフの殲滅(せんめつ)に力を注ぐ方針を示した。しかし、政府と和平交渉が進行中のフィリピン国内最大のイスラム武装勢力、モロ・イスラム解放戦線(MILF)が、アブサヤフなどのイスラム過激派を保護しているという疑惑を指摘。まずそれを払拭する必要があるとくぎを刺し、アブサヤフの殲滅には、まだ時間が必要だとの見方を示した。

 国軍当局はアブサヤフがビデオを使って、構成員の募集を行っていることを明らかにし、ソーシャルネットワークサイトなどで目撃した場合、削除して拡散しないよう国民に呼び掛けている。アブサヤフは国際テロ組織アルカイダとのつながりが指摘されているイスラム過激派。最近ではイスラム国へ忠誠を表明し、身代金目的の誘拐など、フィリピン南部や近隣諸国で反政府活動を活発化させている。